現在、放送業界では、4K・8Kといった次世代放送への移行に伴い、ライブプロダクションシステムについてもIP化の波が押し寄せています。IP化で重要となるのが「時刻同期」です。
本コラムでは、映像分野におけるIPでの同期技術の最前線や、実際の機器との相互接続実験をはじめとするセイコーソリューションズの取り組みを、幅広くわかりやすく解説いたします。(最新号はこちら

第6回 PTP(SMPTE ST 2059)相互接続テスト2

~シスコシステムズ社、ネットワンシステムズ社の協力によるPTP対応スイッチとの多段接続での精度測定~

 

相互接続テスト実施の経緯と目的

第2回コラムにおいて、アリスタネットワークス社との多段接続での精度測定の結果についてご紹介しました。その中でも触れたように、今後の放送業界においてはPTPSMPTE ST 2059)による時刻同期が必須であるにもかかわらず、SMPTE ST 2059-2に対応したイーサネットスイッチメーカーが少ないという状況は変わっていません。

 

コンテンツプロバイダー/放送事業者業界で定番スイッチとの相互接続テストを実施

そこで、セイコーソリューションズのグランドマスタークロックTime Server Pro. TS-2950 以下、GM)との相互接続テスト第2弾として、シスコシステムズ社のスイッチ「Cisco Nexus 92160YC-X」で、放送系プロファイルにおいて、接続実績作りと精度測定を目的とする相互接続テストを実施しました。

シスコシステムズ社の「Cisco Nexus 92160YC-X」は、3.2Tbpsの帯域幅と毎秒25億パケットを超えるスループットをサポートする高性能、高密度ポートのL2/L3スイッチです。

グランドマスタークロック タイムサーバー TS-2950
セイコーソリューションズ
グランドマスタークロック「Time Server Pro. TS-2950」
シスコシステムズ「Cisco Nexus 92160YC-X」
シスコシステムズ「Cisco Nexus 92160YC-X」

 

 

 

 

今回もかなり技術的な部分に踏み込んだ内容になりますが、ぜひ最後までお楽しみください。

 

L2、BC、TCの違いの復習

L2/BC/TCの違いは以下の通りです。

PTP時刻同期に対応しているスイッチ
BC:バウンダリークロック
TC:トランスペアレントクロック

PTP時刻同期に対応していないスイッチ
L2:PTP unawareスイッチ

L2、BC、TCの違い

 

相互接続テストの方法とパターン

今回の相互接続テストでは、PTPのGMから多段に接続された「Cisco Nexus 92160YC-X 」(以下、Nexus)をL2、BCモードにコンフィグした場合の、周波数、位相の変化について測定しました。PTPプロファイルは、Media over IP同期に用いられる「SMPTE ST 2059-2」を使用しています。

なお、測定パターンと測定環境としては下記の想定としました。

【測定パターン】

  • NexusL2BC多段構成動作の場合について測定する
  • 測定は、GMBC配下の擬似Slave1PPS_TEを測定する
  • BC~擬似Slave間のPDV:Packet Delay Variationについて測定する
  • 測定結果は数値の記載は控え、SMPTE ST 2059-2で規定しているスレーブ間時刻同期確度1μs(マイクロ秒)内を満たせば、未達成であれば×と表記しました。
    (※本測定においては生データによる装置性能競争の意味合いではなく、あくまでもMedia over IPにて利用する指標として利用いただくことを主眼としています。生データをご希望の場合はコラム最後のお問い合わせ先よりご用命ください)

【測定環境】

測定環境

(検証風景)

検証風景

 

検証結果1 (L2構成による同期確度の測定)

事前準備が完了したところで、今回の相互接続テストの各項目の測定に入りました。

最初の検証はL2構成による同期確度の測定です。
PTP unaware環境において同一経路をPTP/主信号が流れた場合のPTP揺らぎを測定するため、NexusPTP機能をOFFとした状態でPPS/PDV測定を実施しました。

【測定環境】

測定環境

【検証結果】

背景負荷なし
結果:同期確度1μs内を確認

  PPS PDV
Max TE -
Min TE -
dTE 
  • PTP unawareにも関わらずPPS TE,PDV TE共に規定値の1μsを大きく下回る結果となった。
  • 背景負荷なしであれば十分PTP伝送に耐えうると言える。

背景負荷あり
結果:同期確度1μsオーバーでNGであることを確認

  PPS PDV
Max TE -
Min TE -
dTE  ×
  • 10Gbps背景負荷の印加直後に、最大-500nsのdTEが観測されたものの、SMPTE ST 2059-2ベースの規定値<1μs内に収束した。
  • PDVにおいては、負荷の印加直後よりSMPTE ST 2059-2ベースの規定値<1μs内を満たさなかった。

考察

  • Nexusは高性能・低遅延スイッチであり、遅延量の影響を受けにくいため、背景負荷なしの結果として、PTP単独で通した場合は3段でも十分に確度担保可能となる。
  • 背景負荷ありの場合のPDVについては規定値に対してオーバーしており、結果としてはNG判定となった。
  • PTP unaware SWでは、主信号とPTPを同一伝送路で転送することは困難であるという結果となった

 

検証結果2 (BC構成による同期確度の測定)

次の検証は、BC構成による同期確度の測定を行いました。
PTP aware環境において同一経路をPTP/主信号が流れた場合のPTP揺らぎを測定するため、NexusBC機能をONとした状態でPPS/PDV測定を実施しました。

【測定環境】

測定環境

【検証結果】

背景負荷なし
結果:同期確度1μs内を確認

  PPS PDV
Max TE -
Min TE -
dTE
  • PTP awareの威力発揮でGMとほぼ差が発生しないことを確認。
  • dTEに関しても規定値ベースの1μs内を十分に満たした。

背景負荷あり
結果:同期確度1μs内を確認

  PPS PDV
Max TE -
Min TE -
dTE
  • PDVdTEに関しても、背景負荷の印加直後から規定値ベースの1μs内を満たした。
  • SLAVE PPSdTEに関しても、負荷印加直後から背景負荷なしと同様の測定結果となり、規定値を満たした。

考察

  • 上記結果からBC性能はSMPTE ST 2059-2規定値ベースの<1μs内を満たす結果となった。

 

検証結果のまとめ

結果まとめ

L2、BCを3HOPした状態で確度測定を実施

  • 背景負荷なしにおいては、L2BC構成ともSMPTE ST 2059-2ベースの規定値をクリアした。
  • L2スイッチに設定した際のみ、dTE>1usとなりNGとなった。
  • ただし、注意が必要な点はPDV値がSMPTE ST 2059-2ベースの規定値を満足していない場合においてもPPS値では<1usを満たす結果が得られた点である。このような現象はSLAVEロジックのフィルタリング処理が優秀な場合に顕著になるため実環境においてはPDV値だけで判断してはならないという点が我々にとっても新たな知見となった。

結論

放送業界向け時刻同期要件は、スレーブ間時刻同期確度<1usである。

  • 今回の相互接続において、(Nexusのような)超低レイテンシースイッチを採用したとしても、PTP機能を有効にしなければ、時刻同期要件を確保することは困難であることが判明した。
PTP接続構成 背景負荷 PPS PDV
L2×3 None
10Gbps印加直後〜1時間 ×
BC×3 None
10Gbp

■ :NG(同期精度1μsオーバー) ※L2スイッチ時のみNG発生

■ :OK(同期精度1μs内)

PTP aware環境の構築は不可欠という結果に

以上の結果から、今後の放送業界でPTPによる時刻同期に対応するためにも、PTP aware環境の構築が不可欠であることをご理解いただけましたでしょうか。セイコーソリューションズはこれからも色々なメーカーの機器との相互接続テストを続けていきますので、続報を楽しみにお待ちください。

最後になりますが、今回の検証にご協力いただきましたシスコシステムズ様、ネットワンシステムズ様に感謝申し上げます。今回の検証を行った弊社エンジニアからも、PTPに関連するfeature ptpを設定後、非常にシンプルかつ簡単であったため、検証がスムーズに行えたとのコメントがありました。

次回は、2018年4月開催展示会「映像伝送EXPO」で実施した相互接続テストのデモについてご紹介します。

また、本コラムではPTPにかかわらず映像分野におけるIPでの同期技術や、セイコーソリューションズの取り組みについてご紹介する予定ですのでご期待ください。

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著者プロフィール

橋本 直也

著者近影:橋本氏セイコーソリューションズ株式会社
製品企画部門で、マーケティング・プロジェクトマネージメントを担当

■経歴
1992年~ 2004年 沖電気工業株式会社にてATM交換機のハードウェア開発に従事
2004年  入社
2004年~ 2013年4月までハードウェア開発エンジニア、主に方式設計に従事
2013年~ 製品企画部門へ異動

近年は、PTP IEEE1588時刻同期関連製品の研究開発、マーケティング業務に従事。現在に至る。

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