1. 導入の背景:時間と場所の制約を受けない電子契約が有効
ー 「電子契約ソリューション」をセイコーソリューションズから導入した背景をお教えください。

イオン銀行は小売業から誕生した金融機関として全国に約140の店舗を有しています。
ただ、全国を網羅しているわけではありませんので、弊行の住宅ローンを利用されたいとお考えのお客さますべてに、ご利用いただけているわけではありません。また、近くに店舗があっても、忙しくて来店できない方もいらっしゃいます。
そこで、時間と場所の制約を受けることなく住宅ローンをご利用いただくために、電子契約が有効と考え、導入を検討しました。
一方、弊行の取り組みとしてさまざまな手続きをWebサイト上でできるようにして、つまり手続きのペーパーレス化を進めることにより、お客さまの利便性を高めたいと考えています。
住宅ローンにおいても、従来からお使いいただいていたWebサイトでの「事前審査のお申込み」に加え、2017年10月からは「正式審査のお申込み」もできるようになりました。
それまでは正式審査にあたっては、ご来店いただいて紙の申込書に記入していただいていました。それがWebサイトから可能になったのです。
こうした流れの中、正式審査の結果を受けた住宅ローンのご契約(金銭消費貸借契約書)についても電子化し、Webサイト上でできるようにしたいと考えました。
2. 経緯:「時刻認証業務認定事業者」のタイムスタンプを用いる方法を選択
— セイコーソリューションズ並びに「電子契約ソリューション」はどのようにしてお知りになりましたか。
各種手続きのペーパーレス化、電子契約について、いろいろと調べました。
すると電子契約にはいくつか種類があり、どの方法が法的に問題がなくスムーズにできるのか検討したところ、電子契約の真正性を担保するため、電子署名と一緒に「時刻認証業務認定事業者」のタイムスタンプを用いる方法が有効なのではないかという結論に達しました。
ちなみに電子契約のソリューションをご提供いただける企業はたくさんありますが、そのほとんどがBtoB、企業間取引です。企業間取引は基本的に反復取引で、一度フレームワークを作て、電子認証を取ってしまえば、相手先に間違いがないということで進めることができます。
ところが住宅ローンは個人が対象であり、一つ一つが別のものになります。
そこで「時刻認証業務認定事業者」、つまりタイムビジネスに関する任意の認定制度を取りまとめている一般財団法人日本データ通信協会のタイムビジネス認定センター、そして一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)に話を聞きに行ったところ、金融機関向けに電子契約ソリューションを提供いただける企業として、セイコーソリューションズを含む2社を紹介されました。
— 電子契約の方法として、「時刻認証業務認定事業者」のタイムスタンプと電子署名を用いる方法を選択された理由について教えてください。
銀行の場合、デフォルトしたときのことを想定して計画を立てる必要があります。
住宅ローンの場合、デフォルト後の貸金請求訴訟に堪え得るシステムかどうかが一つの論点になりました。
仮に裁判になったとき、「時刻認証業務認定事業者」のタイムスタンプや電子署名がなかったとしても、裁判で負けることはないと想定できます。しかし、ペーパーレスであるがゆえに、電子データしか残らないため、その立証に膨大な時間がかかる可能性があります。
「電子署名法」により、電子契約における電子署名は印鑑の代わりとして認めてられており、タイムスタンプと組み合わせることで、裁判において立証することが容易ですので、このシステムを選択しました。
法的な根拠については、弊行とセイコーソリューションズ双方で弁護士の方にもご確認いただきました。
3. 決め手:電子契約書自体をセキュアな環境にあるオンラインストレージに
— 「電子契約ソリューション」の選定要件とセイコーソリューションズに決定した理由をお聞かせください。
選定要件は、導入コストとその後のメンテナンス費用が安価であること、また、将来的にマイナンバーカードなどの新しい技術を利用した認証システムが普及した場合でも、柔軟な対応が可能なシステムであることでした。
さまざまなシステムやサービスを検討した結果、セイコーソリューションズのサービスを採用した理由は、「開発後のメンテナンス費用が少なくてすむ」という点でした。
このシステムは、住宅ローンには必須の団体信用生命保険のように、1年~2年ではなく10年~20年以上の長いおつきあいをすることになります。
つまり、一度導入すると、ずっとコストが発生し続けることになり、最終的にお客さまの金利に反映されますので、とりわけ開発後のメンテナンス費用が安いことは、顧客満足度を高めるためにもとても重要でした。
また、セイコーソリューションズは、タイムススタンプや電子署名のサービスを自社開発していて、将来のシステム更新も柔軟に対応できそうであることも採用のポイントでした。
— 「電子契約ソリューション」の導入にあたり工夫されたことはありますか。
今回は電子契約書自体をセキュアな環境にあるクラウドサービスに預ける方法を選択しました。
契約書が紙であったとしたら、それを倉庫などに保管するためのコストが発生します。それをセイコーソリューションズの電子契約ソリューションの一環として、クラウド上に保管してもらいます。
— 金融機関の場合、これまでは契約書類などは自社での保管、つまり電子契約の場合は自社サーバーでの保管を選択されるケースが多かったとお聞きしていますが、今回のクラウドでの保管には、どのような意図があったのでしょうか。
まず紙の場合は、前述のように倉庫など保管のコストがかかりますし、セキュリティ面や紛失のリスクもあります。
電子契約書を自社サーバーで管理するとなると、サーバーのコストはもちろんですが、数十年間維持するためのシステム開発や運用を維持する必要があります。
とりわけ最新のセキュリティ技術に追随していくことはコストがかかります。
今回、電子契約一連のシステムとともにクラウド上に電子契約書を預けるという判断をしましたが、クラウドサービスは暗号化を始めとしたさまざまなセキュリティ対策が行われており、安全性は高いと考えています。
また、弊行は2007年の開業以来、CRMシステムをクラウド上で運用していますので、クラウドにはなじみがありました。
— 「電子契約ソリューション」導入フェーズでのご苦労はありましたか。
セイコーソリューションズへの依頼を決めたのが2017年4月で、7月から実際の開発を始めて2018年1月末のリリースとなりました。
当初はわからないことが多く、とまどうこともありましたが、頻繁にミーティングを持つことで徐々に解消することができました。
開発フェーズもそのものはスムーズに進んだと思います。開発中に他行から同様のシステムに関する発表があると気になりましたが、それによって大きな仕様変更を行う必要もありませんでした。
また、社内業務フローに関しては、すべてのお客さまが一度に電子契約に移行するのではなく、従来の対面での方法も選択できるようにすることで、柔軟な運用ができるようにしています。
ですから、従来のフローと新しい電子契約でのフローの2つを運用していくことになります。そのためのマニュアルなどの整備も併せて進めていました。
4.効果:電子契約はお客さま、弊行ともにメリットがある
— 「電子契約ソリューション」の導入効果をお教えください。
まずお客さまのメリットとしては、
- 印紙代の削減
消費貸借契約書に必要となる印紙税が電子契約では不要となりますので、その分ご負担が少なくなります。 - 事務手続きの時間削減
従来は店舗に足を運ばなければならなかった手続きが、Webサイト上でできますので、その時間の削減につながります。
また、単身赴任中の方の場合、実際に赴任先から店舗にきていただく時間、あるいは郵送で手続きを進めるためにかかっていた時間が削減されます。
また、事前審査で入力したお客さま情報は以後の正式審査、金銭消費貸借契約書にも反映されるため、その都度記入する手間が省かれます。
弊行でのメリットは、
- 郵送コストの削減
金銭消費貸借契約書などはすべて本店に郵送する必要がありました、それが少なくなることで年間数千万円のコスト削減につながると考えられます。 - 事務コストの削減
住宅ローンの契約は一つ一つご説明して、書類に記入をしていただいていますから、一つの契約に1時間~1時間半はかかっていました。
それがWebサイト上で手続きしていただくとなくなりますし、店頭でのご契約でも書類への記入はほとんどなく、確認作業が中心となります。こちらでも時間の削減、事務の効率化につながると考えられます。
最終的には「イオン銀行の住宅ローンは手続きが簡単になって便利」ということで、いままで以上のお客さまに、そして店舗がない地域のお客さまにも選んでいただけるようになるといいですね。
— どの程度のお客さまが「電子契約」に移行されるとお考えですか。
6割くらいのお客さまが電子契約に移行すると考えています。印紙税がかからないというメリットがきちんと伝わると8割くらいのお客さまにご利用いただけるのではないかと思います。
5.今後の期待:新たな提案や他行の動向など情報提供にも期待
— 「電子契約ソリューション」、そしてセイコーソリューションズに対してのリクエスト、期待などありましたらお聞かせください。
電子契約については、他のローン商品、運用商品においてもどんどん進めていこうと考えています。
住宅ローンでは「抵当権設定契約」は法務局が紙の書類しか受理していないため、残念ながらすぐにすべてを電子化、ペーパーレス化することはできません。ただ、法務局の電子化が進展すれば、ゆくゆくはすべてを電子化できるようになると期待しています。
今後も新たな開発やシステムのメンテナンスなどで、セイコーソリューションズにお手伝いいただくとともに、新規のご提案や他行の動向などの情報提供についても期待しています。
株式会社イオン銀行様、
本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。