株式会社一水製作所は30年以上前から、中長距離高速バスに搭載されている運賃箱の開発・製造を行い、今日では国内トップシェアを占めています。高額紙幣の読取器を開発するなど、業界の期待に応えてきた同社が、運賃箱の情報化に取り組むにあたり、セイコーソリューションズの「LTE対応IoTルーター SkyBridgeシリーズ」を導入しました。導入の経緯と効果について、同社システム部次長 業務統括担当 松田 治様、システム部 プロジェクトマネージャー 田沢 尚則様にお話を伺いました。

  • バス乗務員が使用する上で制約が多い運賃箱を進化させたい
  • タブレットを搭載した新機種の開発を行いたい
  • 予約システムとの連携を行いたい
  • 乗客、予約システム会社、バス事業者の機会損失を防ぐことができた
  • SkyBridge導入で自社のビジネスモデルが進化した
  • 幅広い用途でSkyBridgeを活用することができた

1.【導入背景】バス座席の「座席利用率」を向上のために、運賃箱を情報化したい

- セイコーソリューションズから「LTE対応IoTルーター SkyBridgeシリーズ」を導入された背景について教えてください。

東京都北区浮間にある一水製作所
東京都北区浮間にある一水製作所

弊社では30年以上前から中長距離高速バス用の運賃箱の開発と製造を行っています。自社で運賃箱のシステム開発、並びに設計と製造までを一貫して行っていることは大きな特徴といえるでしょう。
高速バスは長距離を走行するために、どうしても運賃は高額になり、高額紙幣への対応が必要になります。そこで高額紙幣に対応した読取器を開発して搭載したり、バスローケーションシステムを開発して連携したり、非接触ICカードへの対応など、常にお客様であるバス事業者からのご要望に対して、できる限りの開発と製造を行ってきました。

従来の運賃箱は物理ボタンと停留所カードを使用していたため、どうしても停留所数に制約がありましたし、路線の数だけ停留所カードが必要になり、路線ごとに変更する必要がありました。そうした制約を打破するために、ネットワークと情報システムを活用して、バス座席の「座席利用率」を向上し、さらにバス乗務員をサポートできるように運賃箱を情報化したいと考え、2014年頃よりタブレットを搭載した機種の開発に着手しました。そこで課題となったのがネットワークに接続する方法でした。

2.【導入経緯】運賃箱の情報化のためにLTE対応ルーターが必要

— ネットワークに接続する方法として、どのような方法を検討されたのでしょうか。

「運賃箱を情報化するには、LTE対応ルーターが必要でした」と、松田 治様
「運賃箱を情報化するには、LTE対応ルーターが必要でした」と、松田 治様

いろいろな方法を検討しました。例えばモバイルWi-Fiルーターも検討しました。ただ、バッテリーの容量と寿命、通信の安定性を考えるとWi-Fiではなく有線で接続したかったので、採用には至りませんでした。
LTE(4G)以前の3G対応ルーターについては、バス座席の「座席稼働率」を向上させるために予約システムに対応した使い方をしたいというお客様のご要望にお応えして、オプションでタブレットを搭載する際に使用しました。ただ、3Gルーターは基地局が切り換る際に少しだけ通信が切れてしまいます。そして、3Gは通信をしないと自動的に切れてしまうので、再接続する必要が出てきます。再接続には時間がかかるので、通信を常に維持するシステムを開発して、通信が切れないよう対応していました。バスロケーションシステムとの連携を考えても、通信が切れないことが重要になります。また、乗務員の方から目的地の交通状況や地図も見たいというリクエストも出てきましたので、データ量が多くなると3Gでは難しいので、LTE(4G)に対応したルーターを必要としていました。

— SkyBridgeはどのようにして知ったのでしょうか。

通信手段を探していく中で、通信モジュールについて代理店である三共社さんからご提案いただきました。その基板の中にはセイコーソリューションズ製もありました。その後、運賃箱に組み込めるLTE対応ルーターが製品化されたという情報も三共社さんからいただきました。
ちょうど各社でLTE対応ルーターが製品化され始めていた時期でしたので、弊社では各社からテスト機を借りして検証・評価しました。

— どのような検証・評価を行ったのでしょうか。

実際に運賃箱に組み込んで、走行テストを行い、位置情報が正しく表示されるか、また、バスはどうしても揺れますので、機器としてその揺れに対応できるかも検証しました。
セイコーソリューションズのSkyBridgeはすでにタクシーで実績がある車載用でしたが、他社のLTE対応ルーターは車載を想定していなかったようで、電源コネクタが抜ける危険もありました。そうしたことを見極めるために検証を進めました。

3.【導入の決め手】車載用LTE対応ルーターとしての実績

— SkyBridgeを導入した決め手を教えてください。

「車載用としての実績、優先接続、組み込み可能なことが導入の決め手です」と、田沢尚則様
「車載用としての実績、優先接続、組み込み可能なことが導入の決め手です」と、田沢尚則様

セイコーソリューションズのSkyBridgeを導入した理由は下記の通りです。

  1. 車載用のLTE対応ルーターとして実績があったこと
    すでにタクシーでの実績がありましたし、車載を前提に作られていますので、バスの揺れなどに対応できる安定性、信頼性を評価しました。
  2. 有線接続ができること
    通信の安定性を考えると、Wi-Fi経由ではなく有線接続という選択になります。また、バスの電源は24Vですので、それに対応している点も評価しました。
  3. 組み込み可能なので、プラスの開発コストがかからないこと
    SkyBridgeはひとつの部品として運賃箱に組み込むことができますので、プラスの開発コストがかからない点も評価しました。通信モジュールなどを導入した場合は、そのためのシステム開発が追加で必要になりますが、SkyBridgeの場合は開発コストがかかりません。

— 導入コストについては比較されましたか。

コスト的には横並びでしたね。それほど差はなかったと思います。いち早く車載用のLTE対応ルーターを提供していただけましたので、現在では他社製品も出ていますが、SkyBridgeを使い続けています。

バス内運賃箱の内部に設置されたSkyBridge

4.【導入効果①】乗客、予約システム会社、バス事業者の機会損失を防ぐ

— SkyBridgeの導入効果について教えてください。

2015年6月にSkyBridgeを組み込んだ運賃箱を初めて出荷して以来、のべで約800台以上の運賃箱をお使いいただいています。
実際のところ、運賃箱としても新開発だったために、出荷当初は運賃箱としての機能だけで、ローカルで機能できるようにタブレットにデータを組み込んでいました。すぐにバス事業者からは終点などで締め切ったときに精算データを送ってほしいなどのご要望が出ましたので、対応していきました。
弊社として早期の対応を計画していたのは、バス座席の「座席稼働率」向上を目的とした予約システムとの連携です。最初は1社だけでしたが、今日では主要予約サイト3社との連携が取れるようになりました。

— 予約システムと連携できるとどのような効果があるのですか。

予約システムとの連携が可能
予約システムとの連携が可能

予約システムと連携することで、乗客、予約システム会社、バス事業者とすべての関係者の機会損失を防げるようになりました。以前は、バス発車時刻の2時間前に予約を締め切りました。運賃箱と予約システムを連携することで、出発後も途中の停留所から乗る予約が可能になりました。これは乗客の方にとっても大きなメリットとなります。以前だと、乗れるかどうかわからないのに停留所に行く必要がありましたが、現在では予約をした上で停留所に向かうことができます。バス事業者、予約サイトも出発前、あるいは停留所を通過するまで予約を受け付けられますので、売上に直接的に貢献できています。「変動価格制」の導入などにも対応が可能になります。

また、乗務員の方も以前だと2時間前に締め切った予約内容を紙で受け取って乗務につきました。現在では予約システムと連携して、リアルタイムで座席の予約状況が分かりますので、途中で営業所などに予約状況を確認する必要がなくなりました。
現在はコロナ禍で減っていますが、インバウンドにも貢献できた部分があります。外国人観光客は、電車を乗り継いで観光地へ向かうより、直接観光地まで運んでくれる高速バスを選ばれることが多々あります。そうしたニーズにお応えするために、タブレットの翻訳機能を使って、乗務員とのやりとりを可能にしました。
また、外国人観光客はクレジットカードを使うケースが多いため、クレジットカード決済に対応したり、さらにQRコード決済に対応したり、国内のキャッシュレス決済にも対応しています。

5.【導入効果②】SkyBridge導入で自社のビジネスモデルが進化

— SkyBridge導入で貴社のビジネスモデルも進化したとお聞きしましたが。

以前の運賃箱はいわゆる売り切り型でした。ですので、1回出荷してしまえば、故障などによるメンテナンス以外に収入が発生することはありませんでした。
SkyBridge導入後の運賃箱は、情報端末化していますので、そこに予約システムとの連携、翻訳機能、ダイナミックプライシングや多様化する決済手段への対応などを行うことにより、今までにはなかった保守契約を結べるようになりました。いわばサブスク化を可能にしてくれて、自社のビジネスモデルを進化させてくれたのがSkyBridgeなんです。

故障による対応についても、以前はバス事業者の修理担当者に故障内容の切り分けをしていただき、その内容によって弊社が対応していました。現在ではネットワークを通じて、リモートで故障原因を探り、解決することもできますので、それらに関わる時間のロスをなくし、負担の軽減もできていると思います。

6.【導入効果③】幅広い用途でSkyBridgeを活用

— 運賃箱以外でもSkyBridgeをお使いいただいているのでしょうか。

弊社ではバス事業者のご要望にお応えするかたちで、運賃箱だけでなく、営業所用やバス停用のデジタルサイネージ、キャッシュレス自動券売機、キャッシュレス窓口機などを開発・製造しています。SkyBridgeはバス停用のデジタルサイネージはもちろんのこと、キャッシュレス自動券売機、キャッシュレス窓口機などにも組み込んでいます。バス停用ではバスロケーションシステムと連動することで、バスの走行位置表示などを行えるようにしています。自動券売機や窓口機はSkyBridgeを組み込むことで、ネットワーク環境が整備されていない営業所や窓口での設置を可能にしました。このように運賃箱以外でもSkyBridgeを活用していますし、さらに新たな用途が出てくるかもしれません。

7.【今後の期待】バス車輌内のネットワークを束ねたい

— 「LTE対応IoTルーター SkyBridgeシリーズ」、セイコーソリューションズに対してのリクエスト、期待などありましたらお聞かせください。

高速バスは実は通信が多用されています。乗客向けのWi-Fiもありますし、ドライブレコーダーも通信機能を持ったものが出てきましたので、通信に対する需要、ご要望は高まっていくと考えられます。
4GのLTE対応IoTルーターの開発では、セイコーソリューションズが最初に製品化したとお聞きしています。今後、5G対応のIoTルーターの開発にも期待しています。弊社としては、バス車輌内のネットワークを束ねるような開発にも着手したいと考えています。そのためにはセイコーソリューションズの5G対応のIoTルーターが不可欠ですので、よろしくお願いします。

田沢様(左)、松田様(中左)、三共社・石郷岡様(中右)と弊社・高見(右)

 

一水製作所様、本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

お客様プロフィール

株式会社一水製作所
URL http://www.issui-ss.co.jp/wp/

※ 取材日時 2021年1月