セイコーインスツル株式会社 生技開発センターでは、社内生産システムの構築や新たな試みを研究し生産システムの価値向上に取り組んでいます。今回の事例の盛岡セイコー工業株式会社は、1970年に設立以来、ウオッチ製造に最適な自然環境のもと、熟練技能師たちによるセイコーのウオッチ生産拠点として数多くの製品を提供し続けています。セイコーの機械式時計の品質を確保するための時計精度検定システム再構築の際に、「Time Server Pro. TS-2910」を採用いただいたセイコーインスツル株式会社のシステム開発者 滝本 祥子氏に、「TS-2910」の導入の経緯と導入後の評価についてお話を伺いました。

  • 時計精度検定システムで、リファレンスの時刻精度誤差を極力ゼロに近づける必要があった。
  • 検定は長期間実施されるため、海外工場を含めて別の工場に移動することも考慮する必要があった。
  • PTPグランドマスタークロックを基準時計として採用することで検定システム全体の要求精度を実現できた。
  • 世界中の工場において高精度なリファレンス時刻が提供でき、検定を継続できるようになった。

1.【導入背景】セイコーの機械式時計の品質確保のために高精度な時刻源が必要でした

ー PTPグランドマスタークロックを導入した背景をお聞かせください。

セイコーの機械式時計の品質を確保するため、より高精度で使い勝手の良い時計精度検定システムが必要となりました。これまで検定システムのリファレンス時刻源として使用していた原子時計は、設備投資が高額であるほか、定期的な校正点検が必要なことや、拠点間の時刻同期が困難であるなどの課題がありました。そこで検定システムの再構築を機に、リファレンス時刻源として、世界中のどこからでも高精度な時刻を得られる、PTPグランドマスタークロックを採用することにしました。

2.【経緯】世界中の工場で全く同じリファレンス時計が必要でした

— 検定システムについて簡単に紹介してください。

検定は時計の秒針の位置を撮像し、秒針位置の画像解析と撮像時のリファレンス時刻をペアとして計測を行います。撮像のタイミングに合わせて遅延や揺らぎなく正確な時刻を取り込む必要があるため、PTPグランドマスタークロックと合わせて、PTPスレーブ側と社内製の画像処理装置にも工夫を凝らした開発を行っています。
また、一般的な機械式時計では、秒針が1秒当たり6〜10回の細かいステップで運針を行います。この検定システムでは、秒針のステップ間の時刻も高精度で測定するため、高速度撮像を行い検定システム内部にて測定対象ムーブメントのステップ間時刻の再構築を行っています。ここでも高速・高精度にリファレンス時刻を取り込む工夫をPTPスレーブに行なっています。
世界に誇るセイコー品質確保のため、新しい検定システムにはPTPグランドマスタークロックと国内(グループ企業内)の技術サポートが必要でした。

— Time Server Pro.を検討された経緯をお聞かせください。

セイコーソリューションズのPTPグランドマスタークロックは、世界中のどこのロケーションにおいてもリファレンス時刻として高精度のUTC(協定世界時)が保障されるため、検定期間中に検定工場・場所を移動しても、測定データをクラウドなどに置いたデータベースに登録し、この検定データの利用と合わせて検定を継続できる利点がありました。たとえば、A工場で検定を開始し、約24時間後の検定はB工場で実施できるようにするためには、ロケーションが変わっても時刻源が同じである必要があります。

3.【決め手】品質面に優れサポート体制も万全でした

— Time Server Pro.が優れていた点をお聞かせください。

[1] 高品質

GPS受信強度の確認

セイコーの機械式時計の品質を確保するために、1年以上の検証を実施しました。最初に気づいたのは抜群に良い時刻精度でした。また検証機は1台体制で常時稼働していましたが、その間に異常が発生することなく、またシステムソフトウエアのアップデートも一度も行われず、十分に安定した品質の製品であることを確認できました。工場は昼夜稼働するため、24時間365日安心して時刻源として利用できると判断しました。

[2] サポート体制
PTPという新しい技術の導入に不安がありましたが、ネットワークの構築方式からPTPスレーブシステム※1を紹介してくれたため、検定システムの構築に専念できたことは大きなメリットでした。
また、工場でのGNSS※2アンテナ設置を共に行いましたが、大雪・極寒の中、豊富な経験から最適なアンテナ設置位置を決定してくれたことが印象に残っています。

 

※1:グランドマスタークロックと時刻同期するクライアントサーバー
※2:全地球航法衛星システム。TS-2910では、QZSSみちびき、GPS、GLONASSに対応

4.【導入効果】定期的な校正が不要となりコストが圧縮されました

— 従来の時刻源と比較してどのようなメリットがあるかをお聞かせください。

これまでリファレンス時刻源として使用していた原子時計では、定期的な校正点検が必要でしたが、PTPグランドマスタークロックは、UTC within 100nsの精度が保証されているため、定期的な校正が不要となりコストが圧縮されました。今後、さらに海外の工場にこのシステムを展開するにあたっても、各地での定期的な校正が不要となるため、費用面・運用面でのメリットが期待されます。

5.【今後の期待】SIIのスマート工場実現への要求に応えていきたいです

— 今後の期待をお聞かせください。

生産技術者として生産工程へのIoTおよび深層学習技術の導入で、さらなる効率化生産システムを目指したいです。
生産工程から得られる大量のデータを使って、細かな少量生産計画と、部材調達・加工・組立の各工程のスケジュールを生成し、各工程の無駄を低減した生産システムの構築や、課程から得られるビッグデータのリアルタイム処理で不良品と不良工程の早期発見によるFコストを低減した生産システムの構築を行いたいです。
これを実現するためには、正確なタイムスタンプが必要になりますので、セイコーソリューションズとの共同開発を望んでいます。

本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

お客様プロフィール

盛岡セイコー工業株式会社
URL http://www.morioka-seiko.co.jp/

※ 取材日時 2018年11月