*MES=製造実行システム

大原薬品工業は1964年に設立され、滋賀県甲賀市に本社を置く医薬品メーカーです。「創造と共生」を社是に様々な企業や医療機関と連携するネットワーク型企業として小児がんをはじめとするオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)事業と、高齢化社会に貢献するジェネリック医薬品事業を展開しています。今回は2015年に完成した鳥居野工場でお話を伺いました。

  • 製造の各工程に時刻記録用の電波時計を設置したが、電波を受信できない場所があった。
  • 複数の時計の時刻ずれを監査に指摘され、対応が必要となった。
  • ネットワーク型のアナログおよびデジタル時計の導入によりMESとの時刻同期を実現できた。
  • 監査から指摘を受けた包装部門で検討を開始し、最終的に工場全体での時刻系を統一。

1.【導入背景】データインテグリティの観点から製造の各工程で正確な時計を用いた記録が必要でした

- 正確な時刻を必要とする背景についてお聞かせください。

医薬品の製造工程では、トレーサービリティを保証する観点から製造記録に時刻を記載する必要があります。そして最近では医薬品および医薬部外品の製造販売承認の要件であるGMP省令にデータインテグリティの考え方が盛り込まれ、監査の内容がさらに厳しくなってきている実感があります。GMP省令を遵守するには、組織ごとに医薬品の製造における手順を確立し、それに従いつつ継続的に改善を行っていく必要があります。製造記録の信頼性を確保するためにデータインテグリティが求められており、製造工程における時刻の記録もここに含まれます。そのため時刻の正確性も監査の対象になります。

2.【経緯】監査の指摘をきっかけとした時計の交換が工場内の時刻を統一するプロジェクトに発展しました

— 設置済みの時計の入れ替えを検討したきっかけについてお聞かせください。

以前から電波時計を利用していたものの、設置場所によっては電波を受信できないものもあり、時刻のずれが発生していました。この工場では、社内で独自に行う点検のほかに、製造委託企業が実施するものも含め年に複数回の監査が行われますが、その監査時に、同じ部屋にある2台の時計の示す時刻が異なっていることを指摘されたことから、複数台をまとめて校正可能な時計へ入れ替えることを検討し始めました。

— NTPクロックを検討された経緯をお聞かせください。

監査時に指摘を受けたのは包装のラインだったので、包装部門で解決のために動き出しました。調査すると、各システム内にそれぞれの時間軸が存在し、その時刻を記録していることに気づきました。データの完全性の観点から、工場内の時間軸統一を工場定例会で提案し、工場長、各責任者の了解を得ました。タイムサーバーから時刻情報を受信しているMESとも同期する必要があり、ネットワークで同期する時計が必要となりました。要件を満たす製品を探した結果、NTPクロックの存在を知りました。

3.【決め手】MESと時計の時刻系を統一するにはネットワークで同期するNTPクロックが唯一の解でした

— NTPクロックが優れていた点をお聞かせください。

時計は工場の生産ラインの各所に設置してあり、各工程で作業開始時、確認時、作業終了時などに時刻を都度記録する必要があります。作業で使用するPCやタブレットはタイムサーバーと同期していることから、壁に設置している時計も同様にネットワークで時刻同期する必要があり、この要件を満たすものはNTPクロックのみでした。デジタル表示のPoEモデルを1台包装ラインの大部屋に設置したほか、工場内にアナログの無線LANモデルを16台設置しました。導入自体は非常に簡単で、特に無線LANモデルは配線不要で、1か月ですべての時計の運用を開始できました。包装室内の時計のみデジタルにしたのは、ここが工場内でも広いエリアとなっており、視認性がよいものが必要だったためです。30人程度が作業を行うので、どの場所からも誰もが時刻を読み違えることなく確認できる必要がありました。

4.【効果】時刻への意識が変わり、データの完全性について大きな学びを得られました

—  導入後、どのようなメリットがあったかお聞かせください。

前述の包装室では、視認性確保のためにこれまで複数の時計を設置していました。それぞれの時計の表示時刻が異なると作業員から指摘を受けたこともあったのですが、今回その課題も解決できました。包装室以外でも、部屋ごとに異なっていた表示時刻が統一され監査時にデータの完全性に配慮した時刻管理ができていることを説明できるようになりました。
電池寿命は5年間とカタログに記載がありますが、アラームが出た段階で交換することにしています。さらに、タイムサーバーの時刻と時計の時刻が合っていることを確認してから作業を始める手順とし、万一電池切れ等でNTPクロックの時刻がずれている場合には、タイムサーバーで同期している他の端末の時刻を参照する運用手順を整備しました。
今回の導入を通して時刻に関する意識が変わりました。今までは多少ずれていても大きな課題と認識していませんでしたが、工場内の時間軸を統一したことで、一つ壁を越えられた実感を持っています。

5.【今後の期待】医薬品業界での需要の高まりに応えるラインアップの拡充に期待しています

— 今後の期待をお聞かせください。

工場内で表示時刻の校正ができていると監査に説明ができるようになったので現時点での課題は解決しました。今後データインテグリティを推進するにあたり、校正のタイミングや定期的に実施しているか、時刻同期データの保管はどうしているのかということを示す必要が出てくる可能性があり、いずれ対応していきたいと考えています。
NTPクロック自体への要望としては、様々な大きさのものなどラインアップの拡充があればと思います。特にネットワークの配線工事は工数がかかってしまうため、デジタルの無線LANモデルの需要は高いと思います。工場内はまんべんなく電源が整備されているので電池式が難しい場合には電気のみ有線で供給することは比較的容易にできるのではないかと思います。
医薬業界はデータの完全性において非常に厳格な制度の導入が求められています。時間管理で同様の課題をお持ちのところも多いと思うので、今後ネットワークで同期する時計が広がればよいと願っています。

(写真左から)
鳥居野工場包装部 包装1課 係長 中村悠河氏/鳥居野工場包装部 包装1課 係長 山本貴将氏/鳥居野工場包装部 技術課 課長 岡田匡生氏/鳥居野工場包装部 包装1課 課長 西田勝範氏/鳥居野工場包装部 包装2課 課長 宮路俊和氏

 

                                 本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

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大原薬品工業株式会社

※ 取材日 2021年10月