世界の時間を決定する国際機関「国際地球回転・基準系事業(IERS)」が、2017年1月1日(日本時間)に「うるう秒」を挿入することを発表しました。
セイコーソリューションズでは、そもそも「うるう秒」とは? という話から、ネットワーク機器やシステムへの影響、その具体的な対策までを、全6回のコラムでわかりやすく解説いたします。(最新号はこちら

セイコータイムサーバーの「うるう秒」対策は、こちらをご覧ください。(資料がダウンロードいただけます)

タイムサーバーによる「うるう秒」シミュレーション試験

タイムサーバー自身の「うるう秒」対策のご紹介

前回はWindows/Linuxの「うるう秒」時の動作&対策と、セイコーのタイムサーバーによる簡単・確実な「うるう秒」対策についてご紹介いたしました。
今回はさらに、タイムサーバーシリーズならではの「うるう秒」対策として、疑似的に「うるう秒」を発生させてのシミュレーション試験を紹介いたします。

その前に、時刻ソースをGPSとするタイムサーバーは自動で「うるう秒」調整が実行されますが、その仕組みをごく簡単に解説します。

 
GPSの位置情報取得にも「正確な時刻」が必要

カーナビやスマートフォンでおなじみのGPS は、位置情報を正確に得るために開発されました。GPS衛星からの電波を受信して位置情報を取得するということはご存知の方も多いかと思います。
GPS衛星から発信される電波に含まれる情報は、衛星自身の位置情報と正確な時刻情報というのはご存知でしょうか。

では、位置情報を取得する仕組みは……というと、GPS電波を発信する衛星にはセシウム、ルビジウムなどの高精度原子時計が複数搭載されていて、その精度はUTC(*1)に対して±100ns以下を保つように地上局によって補正されています。
GPS衛星から発信される電波には、位置情報に加えてその正確な時刻情報も含まれているため、三角測量のように正確な位置情報を得ることができるというわけです。

詳しくは、こちらのJAXAのサイトを参照ください。 http://www.jaxa.jp/countdown/f18/overview/gps_j.html

つまり、簡単にまとめると、以下の1~3の手順によって位置情報を特定することができます。

  1. 各GPS衛星から常時地上に発信される衛星自身の正確な位置情報を受信する。
  2. GPS衛星から発信される正確な時刻情報を受信する。
  3. 各GPSからの時刻情報の遅れから、正確な位置情報を算出する。

 
タイムサーバーが時刻情報を得る仕組み

タイムサーバーがGPSから時間情報を得る仕組みですが、まず、上記1→2→3を実行し、タイムサーバーが設置されている場所の位置情報を取得して、位置固定モードと呼ばれる状態に遷移します。そして、正確な時刻を常時取得し、UTC ±100ns(*1)以内の極めて高精度な時刻ソースとなるわけです。

GPSからの電波の中には「うるう秒」情報が含まれています。
タイムサーバーのコンソールからGPS情報を表示させたものが以下となります。すでに2017年1月1日の「うるう秒」情報が送信されていることがわかります。

 

タイムサーバーで受信したGNSSからのGPS情報

(c)TS-2910# show gnss

Config Information

~~~~~~~~~~~~~~~

Latitude         : N 35.65549         #タイムサーバーの位置情報

Longitude         : E 140.03993

Altitude(m)        : 27.5

Syncronized State     : 3D              #位置情報確定を示す情報

Leap Time         : 2017/01/01 09:00:00    #次回の「うるう秒」情報

~~~~~~~~~~~~~~~              #1秒挿入を示しています

*本コラムの原稿執筆時のGPS情報になります。※1 UTC:協定世界時

実は、GPSソーラーウオッチ セイコーアストロンも「うるう秒」をサポートしています。
https://www.seiko-watch.co.jp/news/topics/posts/545/20160516
「うるう秒」挿入の瞬間を筆者も見てみたいものです。

 

タイムサーバーシリーズの「うるう秒」試験

GPSからの電波に含まれる「うるう秒」情報を抽出できるのはおわかりいただけたかと思います。
しかし、実際に「うるう秒」が発生するのを待っていては試験になりません。

そこで、“GPSシミュレーター”という試験装置を利用して、疑似的に「うるう秒」を発生する条件にすることで、「うるう秒」のシミュレーションを行います。
擬似的な時刻情報によって、2016年12月31日から実際に「うるう秒」が挿入される2017年1月1日以降までを何度も繰り返すことで、タイムサーバーの分散時刻挿入が仕様を満たす条件で実行されることを確実に確認でき、万全の体制で実際の「うるう秒」を迎えることができます。

GPSシミュレーターは決して安価な製品ではありませんが、「うるう秒」を何度も発生させる手段として極めて有効に利用することが可能です。

GPSシミュレーターを利用して「うるう秒」試験を実施している風景

GPSシミュレーターを利用して「うるう秒」試験を実施している風景

  • 著者が右手で操作している機器が、GPSシミュレーター。
  • 右側のラックにセイコーソリューションズが現在提供しているタイムサーバーシリーズ、タイムサーバー Proシリーズ、Time Monitorシリーズを並べ、同一条件で「うるう秒」疑似試験を実施している様子です。

 

タイムサーバーの時刻ソース別「うるう秒」対応状況

GPSやテレホンJJY、長波JJYモデルは、時刻ソースに「うるう秒」情報が含まれているため、タイムサーバーは自動的に「うるう秒」を認識します。
FMモデルのみ手動による設定が必要となります。

時刻ソース 機種 対応状況
GPS衛星 TS-2210GPS
TS-2550GPS
TS-2850
「うるう秒」自動設定
(「うるう秒」手動設定にも対応)
テレホンJJY TS-2210TJJY
TS-2550TJJY
TS-2850
長波JJY TS-2210長波JJY
FM放送 1 TS-2210FM 「うるう秒」手動設定のみに対応

※1 FM時刻ソースはNHK放送の時報を参照しています。時報には「うるう秒」情報が含まれないため、手動設定が必要となります。
 

今回は、タイムサーバーシリーズでの「うるう秒」シミュレーション試験&風景について、GPSの仕組みを含めて紹介させていただきました。
数年に一度の「うるう秒」に関しても、セイコークオリティーの取り組みにより、安心してご対応いただけるよう正確な時を提供してまいります。

次回は、高精度時刻同期プロトコル PTP IEEE1588について紹介させていただきます。
著者が注力して開発に取り組んでいるテーマでもあり、少し熱が入るかもしれません、ご期待ください。

著者プロフィール

橋本 直也

著者近影:橋本氏セイコーソリューションズ株式会社
製品企画部門で、マーケティング・プロジェクトマネージメントを担当

■経歴
1992年~ 2004年 沖電気工業株式会社にてATM交換機のハードウェア開発に従事
2004年  入社
2004年~ 2013年4月までハードウェア開発エンジニア、主に方式設計に従事
2013年~ 製品企画部門へ異動

近年は、PTP IEEE1588時刻同期関連製品の研究開発、マーケティング業務に従事。現在に至る。

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