「うるう秒」を全く使わない時間系
グランドマスターとPTP(IEEE1588)のご紹介
前回までのコラムでは、NTP(Network Time Protocol)の「うるう秒」対策についてご紹介しました。
今回は 、最新の時刻同期プロトコルで「うるう秒」を全く使わない時間系を使用している『PTP』(Precision Time Protocol)についてご紹介します。
なぜ、「うるう秒」を使わないかは後程お話しさせてもらいます。
NTPのおさらい
NTPはタイムサーバー/クライアント間で “ミリ秒オーダー”(1,000分の1秒単位)の精度で時刻同期を実現します。
皆さんのPCは、公開NTPサーバーや社内のタイムサーバーによる時刻補正を行うことで、単体のセシウム原子時計を上回る “長期安定度”で時刻管理でき、今やシステム時刻やオペレーションログがずれてしまうということはなくなりました。
NTPの最大のメリットは、広く普及したIP(インターネット プロトコル)に実装されたことにより、ネットワークに繋がっていれば時刻同期は気にする必要がないという世界を作り上げたことにあるといえます。
今後は、IoT機器の爆発的な増加が予想されますが、それにも十分対応可能な万能な時刻配信プロトコルがNTPです。
セイコーのタイムサーバーは、NTPならではの脆弱性対応や追加のプロトコル実装に引き続き力を入れていきます。
今PTPが着目されている背景
PTPはその名の通り、より高精度(Precision)な時刻同期を行うための次世代プロトコルです。
- 1μs(マイクロ秒:100万分の1秒)以下の時刻同期確度を担保します。
- 時刻はもちろん、周波数基準として利用できます。
- NTPと同様に、広く普及したイーサネットを伝送路として利用します。
PTPの高精度の理由は後述することとして、皆さんの身近な世界での時刻同期精度要求を俯瞰してみます。(以下図参照)
マーケットと時刻同期
*カーネル同期:サーバー同士の時間を同一に保つことでデータの分散配置等を行うための時刻同期。
*遅延計測:伝送路を時間軸上で有効活用するため、伝送遅延を高精度で測定する技術。
*RT-Ether:リアルタイムイーサネット。イーサネットをベースに、信号品質の確保・高精度な同期機能をもたせた規格。
*LTE-A:LTE-Advanced。携帯電話の標準規格LTEを更に高度化した通信方式。
上記のとおり、現在から将来にかけてのスマートフォンや地上デジタル放送、各種インフラはすべて高確度な時刻同期を前提として提供されています。
熱心な読者の方々は、前回のコラムを読んで、GPS衛星からの電波を受ければ100ns(100ナノ秒:1,000万分の1秒)の精度で時刻が取れるのだから、それで充分なんじゃない? というごもっともな考えに至るでしょう。
しかし、当然ながら時代の流れとともに、より質の高いサービスを実現するために技術も進歩していきます。
時代は高精度な時刻同期を求めている
前置きが長くなりましたが、PTPが着目される背景は以下のようになります。
- GPSの届かない地下やビルの中などでも高精度の周波数/時刻を得たい。
- ISDNやATMサービスで提供されていた高精度の周波数をこれからも使いたい。
- 1年に一度校正するのは面倒
これらの解決策として、イーサネットを利用してNTPのように高精度の時刻を得る手段であるPTPが着目されるようになりました。
PTPが高精度な理由
PTPはNTPと比較してプロトコル上では大差ありません。したがって、手放しでPTPだから高精度というわけではありません。
主な理由として、下図の①②の通り、2つの実装上の規格が定義されており、高精度なハードウエアタイムスタンプの付加とネットワークの伝搬遅延を正確に検出・補正することで、きわめて高精度な時刻同期を実現しています。
- ハードウエアでタイムスタンプを打刻するタイムスタンプを打刻するタイミングがIEEE1588の規格で規定されている。
- PTPに対応したネットワーク機器を利用するバウンダリークロックやトランスペアレントクロックを利用して、時刻パケットをリレーする。
- PTPマスターはPRTC(Primary Reference Time Clock)を時刻ソースとするPRTCの定義は長期間(永遠)においても100ns以下の精度を要求しています。
◆2つのキー技術
①ハードウェアタイムスタンプ
②PTP対応ネットワーク機器
グランドマスタークロック選択のポイント
- 確度の確認:UTC to 100ns以下と記載があればOKです。
- 精度の確認:±50nsやPRTC、ITU-T G.8272と記載があること
(上記は全じ精度を違う言い方で各社書いてあります) - HOVスタビリティーの確認:各社数種のクリスタルや原子時計でGPSアンロック時のスタビリティーを記載しています。
たとえば“1.5μs/24H”は、GPSアンロック後24時間はUTCに対して1.5μs以下の誤差であることを示しています。 - HOV条件:HOVまでの通電時間やGPSロック時間に着目
温度一定環境という条件は現実にはあり得ないので、ぜひメーカに問い合わせてください。 - プロファイル:お客様のアプリケーションにマッチしたPTPプロファイルが実装されていること
Telecom Profileだけでも、G.8265.1/G.8275.1/G.8275.2と種々あるので注意してください。……キリがありませんね。
セイコーソリューションズでは、PTPに関しても“セイコークオリティー”でご相談を承っております、お気軽にお問い合わせください。
“国際原子時”の時刻系だから「うるう秒」がない
「うるう秒」コラムということをすっかり忘れてPTPのご紹介に終始してしまいました。
実はNTPとPTPの時刻系は以下のように異なっています。
- NTP:UTC(地球の自転周期に追従するうるう秒がある時刻系)
- PTP:TAI(SI秒を積算したうるう秒がない時刻系)
PTPでは、セシウム原子時計が刻むSI秒を積算したTAI(国際原子時)を採用しています。
TAIは2016年10月現在でUTCに対して36秒遅れています、2017年1月1日のうるう秒挿入によってさらに1秒遅れて37秒の時差が生じます。
あれ? PTPって本当に正確なのかな? と思われるでしょうが、安心してください。UTCとの差分情報と「うるう秒」挿入に関する情報はプロトコル上でアナウンスされています。
また、UTCとTAIの1秒の定義が違うのではないかというご質問を受けることがよくありますが、1秒の定義はセシウム原子時計を源振とするSI秒なのでご安心ください。
冒頭に記載した”なぜ「うるう秒」を使わないのか?”については、PTPは時間の基準であるとともに周波数標準としての役割も果たしていることに起因しています。
今やメートル原器も光が進む速度に置き換わっているため、UTCのように伸び縮みがある時刻系は使いにくいということです。
著者プロフィール
橋本 直也
セイコーソリューションズ株式会社
製品企画部門で、マーケティング・プロジェクトマネージメントを担当
■経歴
1992年~ 2004年 沖電気工業株式会社にてATM交換機のハードウェア開発に従事
2004年 入社
2004年~ 2013年4月までハードウェア開発エンジニア、主に方式設計に従事
2013年~ 製品企画部門へ異動
近年は、PTP IEEE1588時刻同期関連製品の研究開発、マーケティング業務に従事。現在に至る。
講習実績
- セイコーの『うるう秒』対策セミナー
「うるう秒」を乗り越えるために -基礎知識と障害事例・対策実例-
Timer Serverシリーズのご紹介 -「うるう秒」デバッグ実演-
高精度時刻同期プロトコルIEEE1588 PTPのご紹介 - Interop Tokyo 2016 ShowNetステージ
PTP IEEE1588時刻同期プロトコル
「IP通信でナノ秒オーダーの時刻精度を実現する仕組み・ユーケース」