第4回 IIJ社主催 Vidmeet2参加レポート
前回のコラムでは、2017年11月に幕張メッセで開催された「Inter BEE 2017」でのPTP動態デモについてご紹介しました。
第4回は、2017年12月11日にIIJ本社で開催されました『Vidmeet2』に参加した際のレポートをお届けします。
VidMeetとは
IIJ社主催の『Vidmeet』は、Video over IP技術が欧米を中心に急速な広がりを見せ、放送分野でIP化が進行する中、日本でVideo over IP技術の導入促進を目的として創設されたイベントです。
セイコーソリューションズは、高精度時刻同期プロトコルIEEE1588(PTP)のリーディングカンパニーとして、Video over IPに安心して移行していただくための啓蒙活動のため、昨年10月の『Vidmeet1』に続き、『Vidmeet2』にも参加いたしました。
VidMeet2 概要
『VidMeet』の目的は、Video over IPを実現するうえで必要な技術について各回テーマを決め、深堀りすることです。
今回のテーマは時刻同期の標準技術「PTP」でした。本コラムをご覧の皆様は十分にご理解いただいていることかと思いますが、映像作成現場では同期が欠かせないテーマです。
カンファレンスは、セッションとパネルディスカッション、動態展示の3部構成にておおくりしました。
セッションでは、弊社橋本とアリスタネットワークス兵頭様が同期ネットワークの基礎や、同期の仕組み、ネットワーク構築の勘所などについて講演。また、パネルディスカッションでは、ソニー金田様を交え、同期技術に関する活発な意見交換を来場者の皆さまと行いました。動態展示では、ARISTAネットワークス社と共同で放送用時刻同期プロファイルであるSMPTE 2059-2の同期精度を確認いただくための動態展示を行いました。
ここからは、それぞれの概要についてご紹介いたします。
セッション
従来から、映像/音声の同期にはタイムコードとGENLOCK信号が用いられてきました。
その一方で、Video over IPでは、映像/音声信号の伝送にITの標準技術であるEthernetを伝送媒体として利用するため、Ethernetを利用した同期手段を用いることが適切になります。
Ethernetの世界においては「PTP」(Precision Time Protocol(IEEE1588))が高精度時刻同期標準プロトコルとして規定されています。映像技術に関する規格を定めるSMPTE(米国映画テレビ技術者協会)では、IEEE1588をベースに映像向けプロファイル”SMPTE ST 2059”を策定しました。
ここで問題となるのが、「PTPの仕組み」やネットワーク機器に求められる機能に関して、映像業界においても精通したエンジニアが必要になってきたことではないでしょうか。
セイコーソリューションズのセッションでは、「PTPの仕組み」をご理解していただいたうえでネットワークエレメントに必要な要件を説明しました。
また、映像と時刻同期の接点として、Video over IPと時刻同期の必要性、SDI信号システムからのマイグレーションパスを提案しました。お客様からの質問などが多かった項目については、後程、詳しくお話しさせてもらいます。

パネルディスカッション
IIJ山本様のコーディネートのもと、アリスタネットワークス 兵頭様、ソニー・イメージング・プロダクツ・アンド・ソリューションズ 金田様と、セイコーソリューションズ 橋本をパネリストとして、会場の皆さまからの多くのご質問や有益な提言に対するディスカッションを実施いたしました。
Video over IPへの映像業界の期待の高さと、皆さまの新規技術への不安について、我々が果たす役割を再認識させていただいくよい機会となりました。

動態展示(時刻同期ネットワークの動態デモ)
アリスタネットワークス社と共同でPTPによる時刻同期ネットワークの動態デモを実施。会場内に併設されたデモスペースで、GENLOCKをEthernetベースで行い規定の精度を満たすことを、実機デモにて皆さんに可視化し、確認をしていただきました。
セッションを食い入るように聞いていただいた100人以上のお客様から、動態展示デモにおいても多数の質問をいただき、回答させていただきました。

セイコーソリューションズ セッション
ここでは特に反響が大きかった点と、講演者が伝えたかったPTPの基本技術の内容について、セッションで利用したスライドを利用して説明させていただくことで、会場に来られなかった皆様にも少しでも情報を共有させていただければと思います。
映像同期とPTP
Video over IPは「SMPTE ST 2110」による非圧縮伝送が各社共通の標準規格として採択されます。
「SMPTE ST 2110」では、図に示すようにビデオ/オーディオ/アンシラリーデータをSDI信号から分離/分割し、それぞれをRTPパケットとしてIP網に送出、RTPパケットを受信したIPコンバーターでは、時刻情報に基づき分離/分割されたパケットから元データを再現します。
ここで重要なのは、RTPパケットには時刻情報が挿入されているため、MUXでは各データの順序や分離したパケットを合成することができます。
「SMPTE ST 2110」は、従来各社独自のプロファイルもしくは圧縮方式にて画像伝送を行っていた際の反省を生かして、オープンな技術として規定し、「SMPTE ST 2110」に対応した機器であれば相互接続性を担保することを目的として規定されました。映像業界では、ベンダーを意識することなく本規格に対応した機器を自由に組み合わせることが可能となりました。
標準化において問題となるのがベンダー間での相互接続性ですが、SMPTEが主催する、IBCやNABの参加者向け相互接続イベントが年に数回U.S.ヒューストンで実施され、弊社も時刻源として参加しています。
映像同期とPTPによる時刻同期の必要性
既存システムとの共存
PTPは、本来、GPSや極めて高精度の原子時計を由来とするTAI(国際原子時)を配信します。
ですが、既存の放送システムにおいてはBB信号(Black Burst信号)を基準に周波数と位相が決定されています。
したがって、周波数/位相については既存システムから抽出し、ToDに相当する時刻情報についてはセイコーの親時計システムや光TELJJYなどから得て、時刻/位相/周波数を異なる時刻源から合成しPTPにて配信する時刻としました。これは「SMPTE EG 2059-10」にて規定されている方式と同一です。
BBによる既存同期システムとPTP同期システムを共存する例
PTP 時刻同期メカニズムの基本
PTPは、以下の図で示した2つの要素によりナノ秒(ns)オーダ精度の時刻同期をクライアントに提供します。
従来NTPではミリ秒(ms)が限界でした。
PTP高精度時刻同期を実現する2つの要素
PTPによる位相同期の仕組み
PTPによる時刻同期の原理は以下の通りです。
①T1、T2タイムスタンプから、”仮の時差”を得ます。ここには、伝送路の遅延が含まれています。
②T1~T4タイムスタンプから、”片方向遅延”を得ます。片方向遅延を演算する際に双方向遅延を半分にしている点に注意が必要です。
③”仮の時差”-“片方向遅延”を演算し、SLAVEとMASTERの位相差を求めます。
・PTP SLAVEは位相差を常に0にするように自己の時計の”周波数”を調整します。
PTPによる位相同期の仕組み
時刻同期の仕組みから分かること
- パケットへの打刻時間が正確ではない場合、正確な時差を求めることができません。
- パケットの到着時刻に揺らぎが生じた場合、片方向遅延演算が正確に行われないため位相差が揺らぎます。
上記を解決する方法は、既に述べているPTP時刻同期メカニズムの基本を参照してください。
今回は少しアカデミックな内容となってしまいましたが、PTPについて思ったよりも難しくないと印象を持っていただけたら幸いです。
次回は、”さっぽろ雪まつり”で行われたPTP長距離伝送実験トライアル参加レポートをご紹介いたします。
また、本コラムではPTPにかかわらず映像分野におけるIPでの同期技術や、弊社の取り組みについてご紹介予定ですので、ご期待ください。
著者プロフィール
橋本 直也
セイコーソリューションズ株式会社
製品企画部門で、マーケティング・プロジェクトマネージメントを担当
■経歴
1992年~ 2004年 沖電気工業株式会社にてATM交換機のハードウェア開発に従事
2004年 入社
2004年~ 2013年4月までハードウェア開発エンジニア、主に方式設計に従事
2013年~ 製品企画部門へ異動
近年は、PTP IEEE1588時刻同期関連製品の研究開発、マーケティング業務に従事。現在に至る。
講習実績
- セイコーの『うるう秒』対策セミナー
「うるう秒」を乗り越えるために -基礎知識と障害事例・対策実例-
Timer Serverシリーズのご紹介 -「うるう秒」デバッグ実演-
高精度時刻同期プロトコルIEEE1588 PTPのご紹介 - Interop Tokyo 2016 ShowNetステージ
PTP IEEE1588時刻同期プロトコル
「IP通信でナノ秒オーダーの時刻精度を実現する仕組み・ユーケース」
関連製品
関連事例紹介
放送業界事例(MMTでの時刻情報付与)
4K、8K時代のメディアトランスポート方式として国際標準化されたのが、IPをベースにした伝送技術「MMT」です。MMTでの同期において不可欠な高精度な時刻ソリューションをセイコーソリューションズのタイムサーバーが提供いたします。
放送業界事例(スタジオのIP化と局間伝送)
セイコーの「Time Server Pro. TS-2950」は 、IPネットワークによる高精度な時刻同期「PTP(SMPTE ST 2059)」によるナノ秒精度の絶対時刻の配信で、ライブプロダクションシステムのIP化や局間伝送の信号同期をサポートいたします。