現在、放送業界では、4K・8Kといった次世代放送への移行に伴い、ライブプロダクションシステムについてもIP化の波が押し寄せています。IP化で重要となるのが「時刻同期」です。
本コラムでは、映像分野におけるIPでの同期技術の最前線や、実際の機器との相互接続実験をはじめとするセイコーソリューションズの取り組みを、幅広くわかりやすく解説いたします。(最新号はこちら

第5回 JGN広帯域回線を利用したPTP長距離伝送実験参加レポート

前回のコラムでは、2017年12月11日にIIJ本社で開催されました「Vidmeet2」への参加についてのレポートをお届けしました。

第5回は、2017年2月に行われた、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が主催するネットワークテストベッドのJGN広帯域回線を用いた、“さっぽろ雪まつり”およびシンガポール-日本間国際間非圧縮8K映像IP長距離伝送実証実験※1の環境を利用したPTP長距離伝送実験トライアルの参加レポートをお届けします。

※本稿は、2018年3月14日のニュース・イベント記事を加筆・修正し、掲載しております。

 

往復約3,000kmの長距離伝送でのPTP同期実験を実施

この実証実験では、GAORA様、神奈川工科大学様、”さっぽろ雪まつり”を始めとする実験の関係組織にご支援いただき、“さっぽろ雪まつり”実験の公開実験プレビュー会場「グランフロント大阪」の会場エリアの一区画を「擬似回線センター」、遠隔拠点として準備された沖縄名護市マルチメディア館の一区画を「擬似拠点」とし、この間をNICTネットワークテストベッドJGNで接続された長距離伝送環境(往復約3,000km)を利用して、以下の実験を行いました。

 

【実験背景】

  • 昨今の放送業界では、欧米を中心にStudio Video over IP(SVIP)技術2が急速な広がりを見せています。その中で注目されている1つがリモートプロダクション技術3 です。そこで今回の実験では、大阪の擬似回線センターの局クロックを基準として沖縄の擬似拠点と同期が取れるかなど、主に長距離伝送区間における同期技術に主眼を置いた実験を行いました。

 

【検証概要】

 PTP(SMPTE※4 ST 2059-2)5配信実験

  • 大阪の局クロック装置で生成したBlack Burst信号(BB信号)6を基準信号とする。このBB信号をPTP時刻配信装置(Grandmaster Clock)「Time Server Pro. TS-2950-20」に入力し、この信号を周波数源にTS-2950-20で生成したPTPパケット(IP Multicast)をJGN経由で沖縄に配信。沖縄にPTP 同期装置(PTP Slave)としてLawo社製V__Remote4※7を設置。長距離伝送区間(往復3,000km)でのPTP同期状態確認も、この沖縄V__Remote4で行った。

 BB信号延伸実験

  • 大阪から沖縄に配信したPTPパケットを受信した沖縄V__Remote4で、PTPパケットを元にBB信号を生成。このBB信号を沖縄設置の4Kカメラに入力。沖縄の4Kカメラ映像をJGN経由で大阪に伝送し、その映像データを大阪の4Kディスプレイで表示させ、大阪のBB信号との同期状態を比較。

 

【検証環境】

 大阪(擬似回線センター)に「TS-2950-20」を配置。PTP非対応ネットワーク装置(PTP unware Network)で構築されるJGN広帯域回線の大阪~沖縄間(往復約3,000km)を中継回線として利用し、大阪と福岡(擬似Data Center)、沖縄(擬似拠点)にPTP対応ネットワーク装置(Arista Networks社製 Arista7150S※8)をPTP Boundary Clock(BC)として配置。大阪と沖縄のArista7150S配下にオールインワンIPベースのリモートプロダクション装置(V__Remote4)をPTP Slaveとして配置した構成。

 

(PTP長距離伝送実験・構成概要 ※一部省略)
PTP長距離伝送実験・構成概要

 

【検証結果】

  • PTP unaware環境下の各拠点に、BC としてArista 7150Sを配置し、遠隔地でのPTP同期を実証。
  • PTP同期をもとにGenlockした沖縄4Kカメラからの映像が大阪側で安定した映像品質となることを実証。
  • 遠隔地と回線センター間をPTP同期したリモートプロダクションの実現が可能であることを実証。

 

今回の実証実験では、機材借用含めて、沢山の方のご支援をいただきました。
この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

(敬称略・順不同)

  • 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
  • 株式会社GAORA
  • 株式会社毎日放送(MBS)
  • アリスタネットワークスジャパン合同会社
  • ジュニパーネットワークス株式会社
  • 日本電気株式会社
  • 株式会社PFU
  • アストロデザイン株式会社
  • 株式会社朋栄
  • スチューダー・ジャパン-ブロードキャスト株式会社
  • 学校法人幾徳学園 神奈川工科大学
  • 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
  • サイバー関西プロジェクト(CKP)

 

次回は、CISCO社のスイッチを多段接続した際の確度測定結果についてご紹介いたします。
また、本コラムではPTPにかかわらず映像分野におけるIPでの同期技術や、弊社の取り組みについてご紹介予定ですので、ご期待ください。

 

※1.JGN広帯域回線の環境を用いた“さっぽろ雪まつり”およびシンガポール-日本間国際間非圧縮8K映像IP長距離伝送実証実験:
 (ア)公開実験デモのお知らせ:http://www.jgn.nict.go.jp/ja/topics/20180131.html
 (イ)NICTプレスリリース:http://www.nict.go.jp/press/2018/02/26-1.html
 (ウ)神奈川工科大学プレスリリース:https://www.u-presscenter.jp/2018/02/post-38931.html
※2.Studio Video over IP(SVIP)技術:放送設備(ライブシステム、ファイルベースシステム)をIP技術で統合する技術。標準化された技術としてSMPTE ST 2110やST 2059などがある。
※3.リモートプロダクション技術:SVIP技術を利用したIPネットワークで全中継場所、サブスタジオ間での生中継を実現する技術。※4.SMPTE(https://www.smpte.org/):Society of Motion Picture and Television Engineers(米国映画テレビ技術者協会)。映像技術全般にわたる標準規格の策定などを行っている標準化団体。
※5.PTP(SMPTE ST 2059-2):SMPTE で定義された高精度時刻同期プロトコル。
※6.Black Burst信号(BB信号):SMPTE 170M-1999で定義されたNTSC同期信号波形。
※7.Lawo社製V__Remote4:http://www.studer.co.jp/77005.html
※8.Arista Networks社製 Arista7150S:https://www.arista.com/jp/products/7150-series

著者プロフィール

長谷川 幹人

hasegawa-photoセイコーソリューションズ株式会社
製品企画部門で、マーケティング・プロジェクトマネージメントを担当

■経歴
2002年  入社
2002年~ 2011年6月までプリセールスSEを主に担当
2011年~ 製品企画部門へ異動

近年は、Ethernet OAM/TWAMPなどを利用したネットワーク状態監視製品やNTP/PTPなどの時刻同期関連製品などの製品企画に従事。現在に至る。

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