現在、放送業界では、4K・8Kといった次世代放送への移行に伴い、ライブプロダクションシステムについてもIP化の波が押し寄せています。IP化で重要となるのが「時刻同期」です。
本コラムでは、映像分野におけるIPでの同期技術の最前線や、実際の機器との相互接続実験をはじめとするセイコーソリューションズの取り組みを、幅広くわかりやすく解説いたします。(最新号はこちら

第10回 大規模技術検証レポート

検証期間5日間、参加企業20社以上、参加メンバー100名以上の大規模IPライブプロダクションの技術検証に参加

今回の大規模技術検証は、SMPTE ST 2110によるマルチベンダー間の相互接続の実証実験を目的とし、リモートプロダクションを想定したネットワークを構築、放送システムがIP化した際の運用もイメージしながらデモを実施しました。
今回もかなり技術的な部分に踏み込んだ内容になりますが、最後までお楽しみください。

 

技術検証の方法とパターン

今回の技術検証では、StudioとVenue間をBackborn経由でつなぐ疑似環境で、PTPグランドマスタークロック(以下、GM)をStudioと各Venueに配置した中でのPTP AwareとPTP unaware環境のTEや位相の変化について測定しました。

技術検証の基本方針、測定パターンと測定環境としては下記の想定としました。

【基本方針】

  • ネットワーク関連
    ・フラットなL2環境でPrimary、SecondaryのVLANで構成
  • PTP関連
    ・GM、スイッチ、IP-GWのPTPプロファイルは、SMPTE ST2059-2に設定
    ・GPSアンテナは屋外に設置
    ・GMはすべてのVenue、Studioに存在し、GPSに同期
    ・BC/TCはVenue A/B/C/Dのスイッチのみで動作
    Venue以外のスイッチはL2で動作

【測定パターン】

  • PTP unaware 精度比較
  • PTP aware VS PTP unaware 精度比較(2パターン)
  • GM Clock 1PPS比較
    【PTPネットワーク全体図】

 

検証 1 (PTP unaware 精度比較)

最初の検証は Backborn経由のPTP unaware環境での同期精度の比較です。
まずは、Studio PrimaryとBackborn経由のVenue A間の1PPSの測定を実施しました。

【測定環境①】

【検証結果①】

結果: SMPTE 2059-2規定値:1μsecをオーバー

次に、Studio SecondaryとBackborn経由のVenue B/C間の1PPSの測定を実施しました。

【測定環境②】

 

【検証結果②】

結果:  SMPTE 2059-2規定値:1μsecをオーバー  SMPTE 2059-2規定値:1μsecをクリア

【考察】

    • Studio PrimaryとBackborn経由のVenue A間の位相差は大きい。何らかの設定ミスなどが考えられたが、原因は不明となった。
    • Studio SecondaryとBackborn経由のVenue B/C間の測定結果は、TC機能の有効性も精度として示されている。

 

検証 2 (PTP aware VS PTP unaware 精度比較)

次の検証は、同一Venue A内でのPTP環境による同期精度の差を比較する検証です。
Venue AでGPSに接続したGMとSlave間にPTP対応aware環境とPTP unaware環境での1PPSの位相差を2種類の組み合わせで測定しました。
まずは、B社GMとB社Slaveの組み合わせでの環境を構築し、この環境でGMとSlave間のスイッチ設定をBCからL2に変更して1PPSを測定しました。

【測定環境① PTP aware環境】

【検証結果】

結果: SMPTE 2059-2規定値:1μsecをクリア

【測定環境① PTP unaware環境】

【検証結果】

結果:SMPTE 2059-2規定値:1μsec以内で安定

 

次に、当社GM(TS-2950)とB社Slaveの組み合わせでの環境を構築し、この環境でGMとSlave間のスイッチ設定をL2からBCに変更して1PPSを測定しました。

【測定環境② PTP aware環境】

【検証結果】

結果:SMPTE 2059-2規定値:1μsec以内で安定

 

次に、当社GM(TS-2950)とB社Slaveの組み合わせでの環境を構築し、この環境でGMとSlave間のスイッチ設定をBCからL2に変更して1PPSを測定しました。

【測定環境② PTP unaware環境】

【検証結果】

結果:SMPTE 2059-2規定値:1μsec以内で安定

【考察】

  • 同一Venue内の測定結果は、どちらのGMも良好な結果が得られた。
  • 測定環境②ではPTP unaware環境の方が測定結果上では精度が高いように見えるが、機器のタイムスタンプ特性に依存する為、正確な判定は難しい。
    ・一般的にPTP unaware環境の方が精度は悪くなる。

 

検証結果 3(GPSにロックした各GMのUTCに対するTE値)

最後に、GPSにロックした状態でのGM間のUTCに対するTEの検証を行いました。Studio_Primary、Studio_SecondaryとVenue Aに設置している各GMのGPSに対する1PPSのTE測定を実施しました。

【測定環境】

【検証結果】

結果: UTC within 100ns以内で安定  UTC within 100ns以内で安定  UTC within 100ns以内で安定

 

【考察】

  • 各GMがGPSロック時の時刻修正精度は、UTC within 100nsとなった。
  • 今回の検証でGM間の位相差を測定したが、1PPS出力の同軸ケーブル長が統一できなかったため、測定結果は正確な数値ではない

 

検証結果のまとめ

  • BackbornのL2を介してStudio 、VenueのTEが10us程度の数値を示し、基本的には、PTP対応スイッチで構築する事が望ましい。
  • 今回の検証で計測の不明箇所が多々見られた。精度測定時は、1PPS同軸ケーブルなど事前確認・準備を万全にしないと正確な計測ができない。

 

次回は、2018年11月に開催された展示会「Inter BEE 2018」で実施したPTP動態デモについてご紹介します。
また、本コラムではPTPにかかわらず映像分野におけるIPでの同期技術や、セイコーソリューションズの取り組みについてご紹介予定ですので、ご期待ください。

著者プロフィール

宮脇 信久

宮脇 信久セイコーソリューションズ株式会社
セールスサポート部門で、ロードバランサー、PTP時刻同期製品のSEを担当

■経歴
2001年  入社
2001年~ レガシー手順のマルチプロトコルコンバーターのSEを担当
2010年~ ロードバランサーなどの汎用ネットワーク製品のSEを担当
2016年~ PTP時刻同期製品全般のSEを担当

近年は、Inter BEEなどの展示会での動態デモ環境構築、マルチベンダースイッチと弊社グランドマスタークロックの精度測定など幅広くPoC(Proof of Concept)に対応。現在に至る。

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