第14回 第二回大規模技術検証レポート
第二回の大規模技術検証の取り組み
前回のコラムでは「IPリモートプロダクション技術検証会参加レポート」についてご紹介しました。
今回は、以前ご紹介した大規模技術検証の2回目の取り組みに参加したレポートをお届けします。
今回の大規模技術検証会も放送業界向け標準規格に対応した製品を対象に、約2週間にわたって開催され、参加企業30社以上、参加メンバー150名以上の大規模な技術検証会になりました。
第2回目のIPライブプロダクション相互接続検証は、下記の目的で実施されました。
- SMPTE ST 2110を使用した相互接続
- SMPTE ST 2022-7を使用した冗長化システム
- 2K/4Kが混在したシステム
- IPとベースバンドが混在したシステム
- IS-04/IS-05を使用した検証
【検証スケジュール】
- 1週目:インフラ構築・正常性確認(PTP構築・各種検証を含む)
- 2週目:放送機器セットアップ・相互接続検証試験
なお、今回の技術検証では、PTPに関するネットワーク設計、精度検証についてはセイコーソリューションズが主体となり実施させていただくことになりました。その技術検証の内容と結果についてご紹介します。今回もかなり技術的な部分に踏み込んだ内容になりますが、最後までお楽しみください。
技術検証項目
- PTPネットワーク構成
- グランドマスタークロック比較テスト
- グランドマスタークロック可用性テスト
1.PTPネットワーク構成
今回の技術検証では、Studioと複数のVenue間を擬似Backbone経由でつなぐ環境で、PTPグランドマスタークロック(以下、GM)をStudioと各Venueに2台ずつ配置(冗長構成)し、すべてのGMはGNSSに同期したPTP配信を行います。
また、BackboneはPTP unaware環境なので、PTPを配信せず、Studioと各Venueのローカル環境内でPTPを配信するネットワークを設計しました。
ただし、ローカル環境でPTPが配信できなくなった場合に限り、Backbone配置されているGMがPTPを配信する可用性の検証も行いました。
【基本方針】
GM・PTPネットワーク関連
- L3でネットワーク環境を構築、Studioと各Venue は1台のスイッチを論理的にPrimary、Secondaryに分けた構成
- GM、スイッチ、IP-Gateway(以下、IP-GW)のPTPプロファイルは、SMPTE ST2059-2に設定する
- GNSSアンテナは屋外に設置する
- GMはすべてのVenue、Studioに配置し、GNSSに同期させる
(可用性テスト用にBackboneにもGMを設置する) - BC/TCはStudioと各Venue で動作。BackboneのL3スイッチ(BC)は、GM接続ポート以外はBC機能を無効にする。
【PTPネットワーク全体図】
【PTP設定情報】
1.PTPネットワーク構成【まとめ】
- PTPネットワーク全体のGM、PTP対応スイッチ、IP-GWでDomain番号、Priority1,2、Clock Class値を設計することで適切なPTP冗長ネットワークを実現しました。
- AES67対応機器では、SMPTE ST 2059-2とパラメーターが異なり、Domain番号、Priority1,2が固定の場合もあるので、PTPネットワーク設計時は考慮する必要がありました。
- Delay_req/Delay_respの動作に関しては、Multicast、Unicast、Hybridの伝送方法をPTP接続機器間で設定値を確定し正常に動作することができました。
2.GM比較テスト
各GMの単体精度および、各GMに対するSlave機の追従精度をGM直結時、BC/TCを介した場合で1PPS TEの測定を行いました。
- 1PPS比較装置に対する各GM の1PPS TE精度・揺らぎ測定
- Slave機の各GM への追従精度測定
(1)Slave機の各GM追従精度測定(直結時)
(2)Slave機の各GM追従精度測定(BC/TC経由)
- Slave機
・各GMに追従するSlave機はすべて同一機種を使用 - 1PPS測定器の概要
・GNSSから正確なクロックを生成
・測定対象装置6台の同時刻の1PPS TE計測が可能
【各GMと直結Slave接続図】
1. 1PPS比較装置に対する各GMの1PPS TE精度・揺らぎ測定
【まとめ】
■GM(A)
- cTEが1PPS比較装置に対して、400ns程度ずれていることが確認できました。
- dTEも他社GMと比較すると大きな揺らぎが発生していました。
■GM(B)
- cTE、dTEともに良好で安定した挙動が確認できました。
- 計測期間のPeak to peak値も96nsと他社GMと比較して良い結果が得られました。
■GM(C)
- dTEが複数回悪くなり、1PPS比較装置に対して400ns程度のTEが出力される時間帯がありました。システムログからGNSSに対して、同期 ⇔ 非同期の状態変化が複数回発生しているタイミングであることがわかかりました。
2. Slave機の各GMへの追従精度測定
(1)Slave機の各GM追従精度測定(直結時)
【まとめ】
■GM(A)接続Slave
- 他社と比較するとcTE、dTEともに大きく、複数回非常に大きなdTEが発生していました。
■GM(B)接続Slave
- 終始安定した同期精度を実現していました。
- Peak to peak値も最も小さい176nsを出力していました。
■GM(C)接続Slave
- 多くの区間で安定的に同期している状態を観測できましたが、稀に200~250ns程度のdTEが発生していました。
(2)Slave機の各GM追従精度測定(BC/TC経由時)
【各GMとBC/TC経由Slave接続図】
【まとめ】
直結時の測定結果と比較すると計測時間が短いため、Peak to peak値が見かけ上、良くなっています。BC/TCを介しても直結時とほぼ同様の観測結果を出力しており、BC/TCの実力が評価できる結果となりました。
2.GM比較テスト【まとめ】
検証時の概要構成と検証構成構築時の5つポイントをご紹介します。
- 各GMの実装により1PPS比較装置に対するTEは異なるものの、直結時とBC,TCを介した場合で、ほぼ同じ傾向の結果が得られBC,TCは一定の評価ができました。
- GNSS同期が外れると数百ns程度のTEが発生するため、同期手段の可用性が必要であることがわかりました。
- 同期手段の可用性
・ 複数地点のGM利用:BMCA(GPSアンテナも分配器経由でなく冗長)
・GNSSの補完としてPTPを利用(今回だとBackboneに配置したGM)
●携帯キャリアの基地局などは、GNSS異常時、PTP同期による可用性を担保して実運用を実現
3. GM可用性テスト
今回の技術検証では、VenueBのGM(B)がGNSS障害で非同期状態に遷移した時、VenueBのGM(B)からBackboneのGM(bac)切替わり時、及びGNSSが復旧した時の切戻り時のSlaveの追従精度の測定を行いました。
Backbone配下のスイッチは、GNSS障害のタイミングでPTP enable設定に変更しGMの切替えを行いました。切戻し時は、VenueBのGMがGNSSに同期後、PTP disable設定に戻して測定を行いました。
【Venue B_GM(B)障害時の可用性テスト】
- Venue B_GM(B) ⇔ Backbone_GM(bac)切替・切戻検証
- Venue B ⇔ Backbone GM切替・切戻動作時のSlave機追従精度測定
3. GM可用性テスト【まとめ】
■Venue B_GM(B) ⇒ Backbone_GM(bac)に切替えた場合
- Backbone_GM(bac)との接続は、Venue B内のBC1段から、BC3段に環境変化が発生しました。
- SlaveはGM(bac)に同期するが、BC3段のTEが積み重なって200ns程度のcTEが発生する結果となりました。
■Backbone_GM(bac) ⇒ Venue B_GM(B)に切戻した場合
- Venue B内のBC1段経由に戻り、SlaveはGM(B)に同期し、-100ns前後の元のTEに戻る結果となりました。
Venue B ⇔ BackboneへのGM切替り、切戻し動作でBCのHOP数に応じたTEが発生していることが確認できました。
1HOPあたり、約100ns程度のTEが発生していますが、本検証で映像が乱れることはありませんでした。
次回は、JGN広帯域回線を利用した長距離映像伝送実験参加レポートをお送りします
次回は、2019年2月に開催されたJGN広帯域回線を用いた、“さっぽろ雪まつり” 8K映像配信実験の環境を利用した長距離映像伝送実験参加レポートをご紹介します。
本コラムではPTPにかかわらず映像分野におけるIPでの同期技術や、セイコーソリューションズの取り組みについてご紹介予定ですので、引き続きご期待ください。
著者プロフィール
宮脇 信久
セイコーソリューションズ株式会社
セールスサポート部門で、ロードバランサー、PTP時刻同期製品のSEを担当
■経歴
2001年 入社
2001年~ レガシー手順のマルチプロトコルコンバーターのSEを担当
2010年~ ロードバランサーなどの汎用ネットワーク製品のSEを担当
2016年~ PTP時刻同期製品全般のSEを担当
近年は、Inter BEEなどの展示会での動態デモ環境構築、マルチベンダースイッチと弊社グランドマスタークロックの精度測定など幅広くPoC(Proof of Concept)に対応。現在に至る。
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