現在、放送業界では、4K・8Kといった次世代放送への移行に伴い、ライブプロダクションシステムについてもIP化の波が押し寄せています。IP化で重要となるのが「時刻同期」です。
本コラムでは、映像分野におけるIPでの同期技術の最前線や、実際の機器との相互接続実験をはじめとするセイコーソリューションズの取り組みを、幅広くわかりやすく解説いたします。(最新号はこちら

第13回 IPリモートプロダクション技術検証会参加レポート

IPリモートプロダクション技術検証会に参加しました

前回のコラムでは2018年11月に千葉・幕張メッセで開催された展示会「Inter BEE 2018」の特別企画イベント「INTER BEE IP PAVILION」のデモンストレーションについてご紹介しました。
今回はマルチベンダーのIPリモートプロダクション技術検証会に参加したレポートを、PTP視点でお届けします。
この検証は、100G回線を介して、スタジアムと放送センター間を伝送し、将来の中継ネットワークのリモートプロダクション環境の設計・構築に向け、ネットワーク、マルチキャスト、PTP、各種監視の検討のために実施されました。セイコーソリューションズは、PTPグランドマスタークロック(PTP GM)「Time Server Pro. TS-2950」を提供し、マルチベンダーでの相互接続、PTPの最適構成の検討と、監視との連携を目的に参加しました。

 

技術検証会の目的

  •   ネットワーク関連
    ・IPリモートプロダクション環境の設計・構築のノウハウ蓄積のため、PTP・マルチキャストに最適なネットワーク構成を検討する。
  •   運用・監視関連
    ・IPリモートプロダクションにてネットワーク・放送機器の最適な運用・監視方法を検討する。

 

PTP接続概要

  • スタジアム、放送センター両拠点にPTP GMを冗長配置する。
  • 両拠点にGNSSアンテナを設置して、分配器から冗長配置のPTP GMへ接続する。
  • 商用回線を介してネットワーク冗長構成にて、SMPTE ST 2059でIP伝送検証環境を構築する。
  • PTPはGNSSにロックした各拠点のGMから供給され、同一時刻を刻むことで商用100G回線を通さなくとも放送のIP伝送が実現できることを実証する。

 

PTP設計方針

  • PTP プロファイル: SMPTE ST 2059
  • タイムスタンプ送信方式: TWO STEP
  • PTPドメイン:スタジアムを127、放送センターを0で分け、回線間の接続スイッチポートでptp disableとする。
  • ベスト・マスター・クロック・アルゴリズム(BMCA)設定:拠点ごとに同一ポリシーで設計。
    PTP GM#1:Priority1=1/ Priority2=1
    PTP GM#2:Priority1=1/ Priority2=2
    PTPスイッチ:PTP GMからの接続順にPriority1、2共に10、20、30を設定
  • ネットワークスイッチはBoundary Clock(BC)で構成

 

検証構成の概要図

検証時の概要構成と検証構成構築時の5つポイントをご紹介します。

検証構成の概要図(4K・8K放送に向けた時刻同期の取り組み)

 

検証日程について

今回の技術検証会は、数回に分けて環境構築、動作確認、検証を行いました。映像、音声、IP-Gateway、監視系など数多くのベンダーが日程を調整して参加し、スイッチ系統とともに根幹となるPTPは先行で構築を行いました。
今回の環境構築は次のような流れで実施されました。

  • 前提条件
    ・当社参加日程のみ
    ・事前にSI担当会社から各社へのネットワーク系統の案内あり

初日:放送センターにて両拠点機器のラッキング、初期設定、ケーブル結線、GNSSアンテナの引き回し、GNSSとの同期状況の確認
2日目:動作確認、スイッチとPTP同期状況の確認、ローカル接続状況の確認
3日目:スタジアム側機材の切り離し、搬送
4日目:スタジアム側での再セッティング、アンテナ設置後の同期状況の確認
5日目:各ベンダー拠点間接続状況の確認
6日目:各ベンダー拠点間接続状況の確認

 

検証過程でのPTP設定変更、検討点

環境構築・動作確認を行うなかでPTPの設定変更と設定検討がありました。

設定変更はPTPドメインに関するものでした。音声機器の一部でスタジアム・放送センター両拠点のドメイン番号を現状では同じにしておく必要があることがわかり、検証時はPTPドメインを両拠点ともに127としました。

設定検討は上記の設定変更とも関連しますが、検証過程で両拠点間の回線にPTPを通す構成とした際に、PTPドメインが同じであったが、両拠点のPTP GMにPriorityの差をつけていなかったため、異常発生時に意図したPTP GMにロックしない状況が発生しました。
検証時はスタジアム側スイッチ設定の変更で放送センター側のPTPを受ける機器とスタジアム側のPTPを受ける機器に分ける対応となりましたが、同期構成に応じてclockClassなども含めてBMCAのプライオリティを決定する必要がありました。

 

PTP設定変更などで利用した監視ツールについて

今回の技術検証会で検証された監視ツールのうち、PTPの状況確認に用いたツールを紹介します。
API、テレメトリ、SNMPなどで機器情報を取得、可視化するアプリケーションが、今回のPTPでの問題解決や、検証時の状況確認、障害時の早期切り分けに活躍しました。

1つ目のツールはBMCAの変更時などスイッチが同期しているPTP GMのMACアドレスをグラフィカルに表示、変化の状況を時間軸で確認できたため、異常状況の確認を的確に行え、状況把握や共有に役立ちました。

スイッチ毎のGM同期先状況を表示(4K・8K放送に向けた時刻同期の取り組み)
スイッチ毎のGM同期先状況を表示

2つ目のツールは、APIやSNMPで取得した情報を見やすく表示することが可能で、今回の技術検証会ではPTP GMが捕捉しているGNSS衛星数の捕捉状況やスイッチが同期しているPTP GMを色別で表示するなどフレキシブルな調整が可能であり、状況監視に役立ちました。

GMのGNSS衛星捕捉状況(4K・8K放送に向けた時刻同期の取り組み)
GMのGNSS衛星捕捉状況

スイッチのGM同期先状況(4K・8K放送に向けた時刻同期の取り組み)
スイッチのGM同期先状況

 

検証結果

  • 両拠点でGNSSにロックした同一時刻を刻むことで、PTPを回線に通さない状態でIP伝送ができることを実証
  • PTPと連携するツールの見せ方・連携内容を検討

 

所感

今回のレポートはPTPに関係する内容のみですが、全体として大きな障害もなく、さまざまな知見を得ることができて成功であったと感じています。IP化に向けては、当社含めて機能追加や修正などが活発に行われており、今後もさまざまな機器、アプリケーションとPTPでの接続が行えることを確認していく必要があると考えています。そのため、検証の機会はますます重要となり、私自身良い機会をいただいたことへの感謝と、次の機会につなげるために学ぶことの多い技術検証会になりました。

 

次回は、「第二回大規模技術検証レポート」をお送りします

さて、次回は、「第二回大規模技術検証レポート」についてご紹介します。

また、本コラムではPTPにかかわらず映像分野におけるIPでの同期技術や、セイコーソリューションズの取り組みについてご紹介予定ですので、ご期待ください。

著者プロフィール

北島 康行

北島 康行セイコーソリューションズ株式会社
セールスサポート部門でNTP、PTP時刻同期製品のSEを担当

■経歴
2014年  入社
2014年~ レガシー手順のマルチプロトコルコンバーターのSEを担当
2016年~ NTP時刻同期製品全般のSEを担当
2018年~ PTP時刻同期製品全般のSEを担当

近年は、Inter BEEなどの展示会での動態デモ環境構築、マルチベンダースイッチと弊社グランドマスタークロックの精度測定など幅広くPoC(Proof of Concept)に対応。現在に至る。

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