第11回 InterBEEへの道 Part2
『InterBEE』でのPTP動態デモをレポート
前回のコラムでは大規模IPライブプロダクションの技術検証のレポートをお届けいたしました。
第11回は、2018年11月に千葉・幕張メッセで開催された『Inter BEE 2018』のセイコーソリューションズブースのPTPデモ環境と構築の様子を紹介します。
今回のブースデモは、下記のテーマを設定しました。
- 映像伝送装置、ネットワーク装置、PTPグランドマスタークロック(PTP GM)を全て2台構成とし、どのポイントで障害が発生しても、映像伝送に影響がないことを来場者にご覧いただく
このテーマを実現するため、協業いただいている各社から機器を借用し、以下のデモ構成を組むことにしました。
デモ構成
デモ概要
Studio-Venue間のIPライブプロダクションをイメージしたL3ネットワーク(マルチベンダー環境)を構築しました。
- Studio側(放送局想定)
(同期システム)
Black Burst信号(BB信号)をPTP GMの位相ソースにするため、BBソースからGM(2台)にBB信号を入力。
PTP GMから、PTP Transparent Clock(TC)※1機能対応ネットワークスイッチ(アラクサラネットワークス製、以降Alaxala Switch)経由で、PTP Boundary Clock(BC)※2対応ネットワークスイッチ(メラノックステクノロジーズ製、以降Mellanox Switch)にPTPパケットを配信し、Mellanox SwitchからStudio側装置(PTP Slave)とVenue側装置(PTP BC対応スイッチ)にPTPパケットを再配信。
この再配信されたPTPを元に、Sync Generator PTP(セイコーソリューションズ製、仮称・参考出品、以降SGP)からBB信号を波形モニター(リーダー電子製、以降WFM)に入力して、映像信号(SDI)の位相とBB信号の位相をWFMで比較表示。
(IP伝送)
Venue側から伝送された映像をMellanox Switch経由で、SDI-IPコンバーター(スチューダー・ジャパン・ブロードキャスト製、以降V__remote4)と、WFMの2系統で受信比較できる環境を構築し、比較は2台並べた液晶モニターに映像を表示させて確認。 - Venue側(スタジアム想定)
(同期システム)
SGPが、Studio側より伝送されたPTPからBB信号を生成し、そのBB信号をSDI映像再生装置(Venue側設置のカメラ想定)に入力し、Studio側とVenue側のタイミングを同期させる。Venue側のPTP伝送はPTP BC対応ネットワークスイッチ(アリスタネットワークス製、以降Arista Switch)を利用。
(IP伝送)
SDI映像再生装置からV__remote4にSDIを入力し、V__remote4でIP化した後、Arista Switchに入力する。このIP伝送環境を冗長構成で構築。
【デモのポイント】
- PTP(SMPTE ST 2059)にロックした環境で正常に映像出力できること
- 同一BB信号に同期した2台のTS-2950-20(GM)がVR冗長構成(弊社独自機能)で動作し、BMCAによりGM切替わり時もPTPは同一の時刻を配信し、安定した映像出力が実現できること
- SG源のBB信号(ハウスシンクBB信号を擬似)とPTP同期の混在環境で映像同期がとれること
- 映像信号とPTP信号が同一ネットワーク上で共存できること
- SMPTE ST 2022-7により、SDI-IPコンバーターのIP入出力での映像信号の耐障害性が確保されていること
- Studio-Venueでネットワークスイッチ間の冗長機能により、片側回線不調時にも映像とPTP同期に影響が出ないこと
※1 Transparent Clock(TC:透過クロック):クロックを透過する。装置内遅延を付加し、同期精度の劣化はほぼ発生しない。
※2 Boundary Clock(BC:境界クロック):クロックを再配信する。同期精度はTCより劣る。
今回使用した機器
- ネットワーク機器(BC対応ネットワークスイッチ)
・アリスタネットワークス 7280SR、7150S
・メラノックステクノロジーズ SN2410、SN2100 - ネットワーク機器(TC対応ネットワークスイッチ)
・アラクサラネットワークス AX4630S - PTP-Slave
・LAWO V__Remote4 - 計測器
リーダー電子 LV5600 - 映像機器
グラスバレー T2 iDDR - ラック
・ニッキャビ SRV60シリーズ、SRV70シリーズ
ご協力ありがとうございました!
ネットワーク構築レポート
今回の構築の様子をご紹介します。
- 10:00 ブース到着!
今回は初のラック2台構成になりますので、早めに会場へ向かいました! - 10:30 デモ機器のラッキングとコンソールサーバーとの接続から
まず、TS-2950(2台)、ネットワークスイッチ(6台)のシリアルコンソールポートをSmartCS(コンソールサーバー)にそれぞれUTPケーブルで接続し、マネジメントネットワークに接続したパソコンからTelnet, SSHでアクセスできるようにします。結果、混雑するラック前の作業も緩和されます。また、デモ環境構築中のオペレーションログや装置から出力されるコンソールログがSmartCS内に自動的に保存されるため、切り分け時にも威力を発揮します。初期IPが振られていないキッティング作業時などもSmartCSからマネジメントネットワーク経由で機器設定が可能になります。
※今回の動態デモもノートラブルでした(^^)v - 13:30 ケーブリング
今回はラック2本間の配線やSDI・LAN・HDMIなど多種のケーブルを使用していたため、かなり時間がかかってしまいました。 - 14:30 設定&動作確認
今回は、昨年のInterBEE、4月の映像伝送EXPOに続き、3回目のチャレンジだったことと、機器をご提供いただいたパートナーさんと事前にPoC(Proof of Concept(概念実証))を実施していたので、事前準備は万全だったのですが、映像が流れるとブース内で拍手がおきました。 - 16:00 デモ構成の完成!!
- 16:30 障害ポイント発生時のデモ確認
最後は今回のデモの目玉の1つでもある冗長機能の確認作業です。事前PoCでも確認済みだったので、こちらも問題なく終了しました。
今回のデモ機材の詳細は下記の通りです。
【Studio】
【Venue】
- 17:00 前夜祭&決起集会へ……
デモの結果
- マルチベンダーで構築したPTPネットワークにて、展示会3日間を安定的に運用できました
- BB信号で同期している機器とPTPで同期している機器が、同位相で動作しました
- BB信号に同期した2台のGMをVR独自機能で動作させる事で、BMCAによるGM切替わり時もPTPは同一時刻を配信し、安定した映像出力ができました
- 障害ポイントが発生した状態でも、SMPTE ST 2022-7により、正常に映像が表示され、同期状態も維持できました
昨年よりブースが大きくなった分、会期中は昨年以上の方にデモや、セイコーソリューションズの取り組みをご覧いただくことができました。たくさんのお客さまとお話しした中で、ご提示いただいた製品へのご要望は、パートナー企業との協同デモやPOCの実施、またセイコーの PTP製品への反映を通じて、応えていきたいと考えています!
今後とも、セイコーソリューションズの時刻同期の取り組みにご期待ください。
次回は、IP Pavilionのレポートをお送りします
さて、次回のコラムは、『Inter BEE 2018』のもう1つの目玉のIP Pavilionのレポートをお送りします。
本コラムではPTPにかかわらず映像分野におけるIPでの同期技術や、セイコーソリューションズの取り組みについてご紹介予定ですので、ご期待ください。
著者プロフィール
長谷川 幹人
セイコーソリューションズ株式会社
製品企画部門で、マーケティング・プロジェクトマネージメントを担当
■経歴
2002年 入社
2002年~ 2011年6月までプリセールスSEを主に担当
2011年~ 製品企画部門へ異動
近年は、Ethernet OAM/TWAMPなどを利用したネットワーク状態監視製品やNTP/PTPなどの時刻同期関連製品などの製品企画に従事。現在に至る。
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放送業界事例(MMTでの時刻情報付与)
4K、8K時代のメディアトランスポート方式として国際標準化されたのが、IPをベースにした伝送技術「MMT」です。MMTでの同期において不可欠な高精度な時刻ソリューションをセイコーソリューションズのタイムサーバーが提供いたします。
放送業界事例(スタジオのIP化と局間伝送)
セイコーの「Time Server Pro. TS-2950」は 、IPネットワークによる高精度な時刻同期「PTP(SMPTE ST 2059)」によるナノ秒精度の絶対時刻の配信で、ライブプロダクションシステムのIP化や局間伝送の信号同期をサポートいたします。