現在、放送業界では、4K・8Kといった次世代放送への移行に伴い、ライブプロダクションシステムについてもIP化の波が押し寄せています。IP化で重要となるのが「時刻同期」です。
本コラムでは、映像分野におけるIPでの同期技術の最前線や、実際の機器との相互接続実験をはじめとするセイコーソリューションズの取り組みを、幅広くわかりやすく解説いたします。(最新号はこちら

第8回 『NAB Show 2018』 IP Showcaseレポート

前回のコラムでは、2018年4月に東京ビッグサイトで開催された『映像伝送EXPO(VCOM)』のセイコーソリューションズブースのPTPデモのレポートをお届けしました。
第8回は、2018年4月9日~11日に米国ネバダ州ラスベガスで開催された、世界最大の放送機器展覧会『NAB Show 2018(NAB2018)』の目玉企画「IP Showcase」の参加レポートをお届けします。

NAB Show 2018

これまでのIP Showcase

IP Showcaseの始まりは、欧州最大の映像・放送展示会IBC(International Broadcast Conference)2016でした。そこで、IP(Internet Protocol)設備で構成する放送のライブ制作システムの相互運用性ゾーンとして初お目見えしました。

その内容は、これまでのSDI(Serial Digital Interface)で構成された放送のライブ制作システムから、SMPTE(Society of Motion Picture & Television Engineers)などで定義された新しいIP技術(当時はドラフト)を用いたシステムへの切り替えを想定し、総勢35社のマルチベンダー環境で構築した画期的な動態デモでした。
その後、NAB2017, IBC2017と継続され、NAB2018が4回目になります(セイコーソリューションズはIBC2017のIP Showcaseに参加しています)。

『NAB Show 2018』IP Showcase

今回は総勢51社のマルチベンダー環境にて「Standard Driven Workflow」をテーマに、8つの動態展示エリアが設けられました。

「Standard Driven Workflow」がテーマ

1. SMPTE ST 2110 Based Live Production

こちらは、IP Showcaseの取り組みの一つである、最新技術普及のための「IP Showcase Theater」(Showcaseメンバーを中心に最新のIP技術やユースケースなどの最新トレンドを各コマ20分から30分枠でセッション)で使用するライブ映像配信機材のLive Production運用デモコーナーです。

○IP Showcase Theater SessionのLive Production現場

IP Showcase Theater SessionのLive Production現場

このエリアの裏で行われているプレゼンテーションを複数のカメラを使用してライブ配信していました。

○プレゼンテーション風景とLive Productionコーナー全景
プレゼンテーション風景とLive Productionコーナー全景

○使用機材
使用機材

2. Choose from a Wide Range of IP Audio Devices

こちらはVoice over IP技術のAES67と、SMPTE ST 2110-30の動態デモコーナーです。

○コーナー全景
コーナー全景

○デモのポイント
デモのポイント

AES R16(AES, SMPTEのPTP共通化)もテーマの一つです。

○Voice over IP出力状況
Voice over IP出力状況

SMPTE ST 2110-30 is a constrained subset of AES67
(SMPTE ST 2110-30はAES67の制約付きサブセット)

  • ST 2110-30 Level B & Level C, these two operating points both support a shorter packet time of 125 micro second, ideal for low-latency Live Production.(ST 2110-30レベルBおよびレベルCでは、これらの2つの動作ポイントの両方が125マイクロ秒の短いパケット時間をサポートし、低レイテンシのライブ制作に最適)
  • Level B: up to 8 channels per stream(ストリームあたり最大8チャネル)
  • Level C: up to 64 channels per stream(ストリームあたり最大64チャネル)
    Constraints = better interoperability (via tighter operating point definition)
    (制約=より良い相互運用性(より厳しい動作点定義による))

SMPTE ST 2110-30のLevel BとCの違いについて紹介していました。

3. Build an Infrastructure capable of any Format & Simplify and Reduce Cabling

こちらは、SMPTE ST 2110の各種Video format対応デモと、光ケーブルと同軸ケーブルの比較コーナーです。

○全景
全景

左側で、SMPTE ST 2110が各種Video formatに対応していることを説明、右側で、光ケーブルと同軸ケーブルの収容効率やコスト比較を説明していました。

○SMPTE ST 2110の各種Video format対応デモ
SMPTE ST 2110の各種Video format対応デモ

SMPTE ST 2110はSD~UHD/8K/HDRに対応し、将来のVideo Formatも見据えている規格であることを紹介していました。

○光ケーブルと同軸ケーブルの比較
光ケーブルと同軸ケーブルの比較

実物のケーブルを用意し、同軸ケーブルと光ケーブルの収容効率やコスト比較を紹介していました。

4. Simplify Device Discovery and Connection

こちらは、AMWA(Advanced Media Workflow Association)が定義する運用管理プロトコルNMOS(Networked Media Open Specifications)のIS-04, IS-05動態デモコーナーです。

【参考】NMOS IS-04(Discovery & Registration), IS-05(Device Connection Management)とは

IS-04は、ネットワーク上のリソース(カメラやスイッチャーなどの放送機器など)を見つけるための規格です。自動化/システムスケーリング、mDNS/DNS-SDを使用したゼロコンフィグ、レジストリーが存在しない際のPeer to Peer実装などを定義しています。
IS-05は、レシーバー/センダー間のフローを確立/破棄するための規格です。外部コントローラーからの接続制御を定義し、IP Unicast/Multicast接続に対応します。時間指定の制御、複数デバイスの一括制御が可能です。

○全景
全景

○NMOS IS-04動態デモ(左側)
「PLUG & PLAY」の下に配置されている光ケーブルを抜き差しすると、その上のRegistration Serverに表示(登録)されているIS-04対応端末が非登録、再登録されることを体感できるコーナーです。

○NMOS IS-05動態デモ(右側)
「FAMILIAR SIGNAL ROUTING」の下に配置されているスイッチャーを操作すると、対象映像のリアルタイムなスイッチングが体感できるコーナーです。

アテンダーが実際にスイッチャーを操作して、IS-05によるリアルタイムスイッチングを紹介

アテンダーが実際にスイッチャーを操作して、IS-05によるリアルタイムスイッチングを紹介していました。

5. Align Signals Automatically

こちらは、SMPTE ST 2110 Lip-Sync Demo, SMPTE ST 2110とAES67レシーバーのネットワーク遅延補正動作の動態デモコーナーです。

○全景
全景

左側は映像にDelayを入れた場合、右側は音声にDelayを入れた動態デモを行っていました。

6. Ensure System Resiliency and Protect From Data Loss

こちらは、SMPTE ST 2022-7対応機器間で、光ケーブル抜き差しによる経路切り替えデモ, 2経路からそれぞれ一部のデータが欠損した映像データをマージして正常な映像にするデモコーナーです。

○全景
全景

○光ケーブル抜き差しによる経路切り替えデモ
光ケーブル抜き差しによる経路切り替えデモ

2経路のうち、1経路の光ケーブルを抜いても、送信側と受信側の映像は同じものが表示されることを紹介していました。

○2経路からそれぞれ一部のデータが欠損した映像データをマージして正常な映像にするデモ
2経路からそれぞれ一部のデータが欠損した映像データをマージして正常な映像にするデモ

送信側と受信側にST 2022-7対応の放送機材を配置し、それぞれの中継装置で意図的に一部のデータを欠損させても、受信側で正常に映像をマージできることを紹介していました。

7. Design Deterministic IP Systems with Cots IP Switches

こちらは、SMPTE ST 2110-21 Traffic Shapingデモコーナーです。

○全景
全景

以下の説明がありました。

○SMPTE ST 2110-21 Specifies traffic shaping (the spacing out of IP Packets over time)
(SMPTE ST 2110-21トラフィックシェーピングを明示(時間経過に伴うIPパケット間隔)

  • Narrow Packet Spacing(ナローパケット間隔)
    ・Some traffic flows are very steady and uniform, meaning most packets arrive within very few different intervals.
    (トラフィックフローをほぼ一定のパケット間隔で伝搬 → レシーバーは一定量のパケット受信バッファで受信可能)
  • Wide Packet Spacing(ワイドパケット間隔)
    ・Some traffic flows are more bursty and less uniform, meaning packets arrive within many different intervals.
    (トラフィックフローを様々なパケット間隔で伝搬 →レシーバーはバーストトラフィックまで想定したパケット受信バッファを用意する必要あり)

○SMPTE ST 2110-21 supports deterministic designs
(SMPTE ST 2110-21は決定的な設計をサポート)

  • A 100% narrow(N) transmitter-based design enables maximum switch utilization without added memory.
    (ナロートランスミッターベース設計によりメモリ追加せずスイッチを最大限に活用可能)
  • Wide(W) transmitters can be used when a narrow traffic profile is not attainable with a given product or technology.
    (所与の製品または技術でナロートラフィックプロファイルが得られない場合、ワイドトランスミッターを使用可能)
  • Narrow receivers can only accept traffic from narrow transmitters due to their limited buffering capabilities.
    (ナローレシーバーは、限定されたバッファリング能力のためナロートランスミッターからのトラフィックのみ受信可能)
  • Wide receivers are "universal receivers", accepting traffic from either narrow or wide transmitters.
    (ワイドレシーバーは、「ユニバーサルレシーバー」であり、ナロー、ワイドトランスミッターのどちらからでもトラフィック受信可能)
  • With SMPTE ST 2110-21 traffic profiles on can determine how much IP switch memory is required to support a given system.
    (SMPTE ST 2110-21を使用すると、所定のシステムをサポートするために必要なIPスイッチメモリの量を、トラフィックプロファイルによって決定可能)

○デモ構成
デモ構成

SMPTE ST 2110-21に定義された、NarrowとWideのTransmitter, Receiverを組み合わせた構成です。

○レシーバー側の映像表示
レシーバー側の映像表示

ポイントは、Wide → Narrow以外の構成は受信OKという点です。

8. Transition Seamlessly from SDI to IP at Your Pace

こちらは、GPS→PTP→SDIの同期デモコーナーです。

○全景
全景

○SDI & IP Signal can easily be converted from one transport to the other
SDI & IP Signal can easily be converted from one transport to the other

SDIの同期システム(Black Burst)からSDIとIP(PTP)の混在、そしてIPの同期システムへの移行の流れを紹介していました。

○PTP & Black Burst Can Coexist and be in sync
PTP & Black Burst Can Coexist and be in sync

Hybrid環境を想定し、PTP Grandmaster Clockから、PTPとBlack Burst信号を計測機器に入力し、位相差のないことを動態デモで紹介していました。

所感

IBC2017のIP Showcaseよりも、これからIP設備を検討される放送局向けに相当分かりやすい展示になっていました。そのためか、各コーナーの機材の数がIBC2017よりだいぶ限定して(絞って)装置が選別されていたように思えました。
(参加社数の割に、展示されていた装置数が少なかった印象あり)

次回は、2018年6月に幕張メッセで開催された『Interop Tokyo 2018』と、『Connected Media Tokyo 2018』共同企画「Live Media IP Show Case」レポートについてご紹介します。
また、本コラムではPTPにかかわらず映像分野におけるIPでの同期技術や、セイコーソリューションズの取り組みについてご紹介予定ですので、ご期待ください。

著者プロフィール

長谷川 幹人

hasegawa-photoセイコーソリューションズ株式会社
製品企画部門で、マーケティング・プロジェクトマネージメントを担当

■経歴
2002年  入社
2002年~ 2011年6月までプリセールスSEを主に担当
2011年~ 製品企画部門へ異動

近年は、Ethernet OAM/TWAMPなどを利用したネットワーク状態監視製品やNTP/PTPなどの時刻同期関連製品などの製品企画に従事。現在に至る。

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