第1回 映像制作/伝送分野のIP化とPTP(SMPTE ST 2059)
映像制作/伝送分野の現状
映像制作分野や映像伝送分野での機器間接続は、SDIケーブルでの接続が一般的で、IPネットワークの利用は一部にとどまっていました。
しかし、4K・8K放送をはじめとするリッチな映像コンテンツが普及し始めたことにより、映像制作分野、映像伝送分野のIP化技術が注目され、その導入が加速しています。
なぜならば、4K放送用のインフラをSDIケーブルで構築する場合、配線やビデオルーターなどはHDの4倍以上必要となり、スペース、重量、コストなどに多くの課題があることが背景にあるからです。
4K放送では、SDIケーブル接続だとケーブル数が膨大な数に……
映像制作/伝送分野でのIP化のメリットとは?
さらに、配線面に加えて、映像制作や伝送分野でのIP化にはたくさんのメリットがあります。
- 汎用品の活用が可能
- 他システムとの共有化
- 距離の制約がない ...and more
しかし、IP化する上で問題となってくるのが同期についてです。
みなさんご存知のように、映像分野において同期技術は欠かせないものです。これまではSDI同軸ケーブルで行っていた同期についても、IP化する必要が出てきます。
映像分野における同期に関するIP化技術
では、映像分野における同期に関するIP化技術といえば、何でしょうか?
そこであげられるのが、ネットワークでの時刻同期技術としておなじみの『NTP(Network Time Protcol)』と『PTP(Precision Time Protocol)』です。
特にPTPはマイクロ、ナノ秒単位での時刻同期が可能で、放送用のプロファイルである「SMPTE ST 2059-1/-2」も用意されています。
さらに、PTPは時刻同期だけでなく、周波数同期も実現可能なプロトコルなのです。
BB信号の代わりとなる「SMPTE ST 2059」
「SMPTE ST 2059」は、スタジオサブなどで使われているBB(Black Burst)信号の代わりとなる技術で、SMPTE ST 2110-10の中で映像/音声のタイミング技術として定義されています。
なぜこの技術がBB信号の代わりになるのか……というと、下の図のように、SMPTE ST 2059では映像フレームの先頭を示すNextAlignmentPointをPTPの時刻情報から算出することが可能だからなのです。
IP化で同期はできるのか?
次に、みなさんが気になるのは、IP技術で「ちゃんと」同期できるのか?ではないでしょうか。PTP(SMPTE ST 2059)はプロトコルの性質上、経路上のネットワーク機器(※)やSlave(※)となる放送機器の実装で精度に大きな影響が出ます。これは、Interop Tokyo ShowNetやIBC2017 IP Showcaseに弊社が参加し、PTPでの相互接続検証を行う中で、身をもって体感してきました。(※詳しくは下記リンク先をご覧ください)
弊社はメーカーですので、より良い製品をお届けすべく、モノづくりの一環として、展示会などのイベントや各社個別でのご協力により、放送機器、ネットワーク機器、測定器……など、さまざまな機器・製品とのPTP(SMPTE ST 2059)の相互接続検証を積極的に実施しています。
IBC IP Showcaseでの相互接続検証
そういった中、私もたくさんの放送局の方とお話しさせていただいておりますが、行く先々で、「本当にIPネットワークをつかって同期できるのか?」とのご質問を毎回いただきますので、本連載コラムの前半ではネットワーク機器との相互接続実験結果についてお伝えしていきたいと考えています。
こちらをご覧いただければ、映像制作/伝送分野におけるIPネットワーク経由での同期が、すでに実用段階であることがお分かりいただけると思います。
次回のコラムはさっそく、アリスタネットワークス様のスイッチを多段接続した際の精度測定結果についてご紹介いたします。
また、本コラムではPTPに限らず、映像分野におけるIPでの同期技術や、弊社の取り組みについて幅広くご紹介予定ですので、ご期待ください。
※内容や回数は予告なく変更される場合があります。
『Inter BEE 2017』に出展します
セイコーソリューションは、11月15日(水)~17日(金)に幕張メッセで開催される『Inter BEE 2017(国際放送機器展)』に出展いたします。
今回は、ご愛顧いただいておりますPTP(IEEE1588v2/SMPTE ST 2059)に対応したグランドマスタークロック「Time Server Pro. TS-2950」の新たな周波数源(10MHz信号/BlackBurst信号)に対応したラインナップをご紹介。
また、IEEE1588時刻同期プロトコル応用SLAVE製品により、スタジオIP化に向けたマイグレーションプランもご提供いたします。
- 出展内容の詳細はこちら
コラム目次
著者プロフィール
海野 俊
セイコーソリューションズ株式会社
アカウント営業(主にメディア/通信事業者担当)
■経歴
2009年 入社
2009年~ 時刻同期製品全般のプロダクト営業
2014年~ メディア/通信事業者担当のアカウント営業
近年はJANOG実行委員をするなど業界コミュニティにも貢献。
現在、放送業界向けグランドマスター TS-2950-10とTS-2950-20を全国の放送局への提案を担当。
講演実績
- IIJ VidMeet1
「IBC2017 IP Showcase参加レポート」
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放送業界事例(MMTでの時刻情報付与)
4K、8K時代のメディアトランスポート方式として国際標準化されたのが、IPをベースにした伝送技術「MMT」です。MMTでの同期において不可欠な高精度な時刻ソリューションをセイコーソリューションズのタイムサーバーが提供いたします。
放送業界事例(スタジオのIP化と局間伝送)
セイコーの「Time Server Pro. TS-2950」は 、IPネットワークによる高精度な時刻同期「PTP(SMPTE ST 2059)」によるナノ秒精度の絶対時刻の配信で、ライブプロダクションシステムのIP化や局間伝送の信号同期をサポートいたします。