第16回 映像伝送EXPOへの道
『映像伝送EXPO 2019』でのPTP動態デモをレポート
前回のコラムでは、JGN広帯域回線を利用した長距離映像伝送実験参加レポートをお届けいたしました。
第16回は、2019年7月に東京ビックサイト青海展示棟で開催された『映像伝送EXPO(VCOM)』のセイコーソリューションズブースのPTPデモ環境と構築の様子を紹介します。
今回のPTP動態デモのポイント
【デモテーマ】
TS-2950-20グランドマスタークロック(以降PTP GM)が生成するPTPパケットおよび、SMPTE ST 2059-1に定義されたBlack Burst(以降BB)出力信号を同位相で供給し、既存放送設備からの映像、音声がIPネットワークを介しても正常に伝送できること。
デモ構成
デモ概要
- 同期システム
Sync GeneratorのBB信号(擬似局クロック)をPTP GMの位相ソースとし、PTP GM(2台)に入力。
PTP GMから、PTP Boundary Clock(BC)対応ネットワークスイッチ(アリスタネットワークス製、以降Arista Switch)にPTPパケットを配信し、Arista SwitchからSDI-IP-GTW(AJA Video Systems製、以降IP-GW)、TS-1550シンクジェネレーター{セイコーソリューションズ製、以降SGP}にPTPパケットを再配信。
各機器のBB信号をオシロスコープに入力して、位相差を確認。 - IP伝送
PTP GM #1からのBBout信号を映像再生装置にリファレンスとして入力した映像を、IP-GW(SMPTE ST 2110)にSDI入力し、10G冗長接続でIP化した後、Arista Switchを2HOP介して、IP-GW(SMPTE ST 2110)でIPからSDIに戻しモニターに出力。映像再生機の映像元とIP経由の映像を比較。
本デモでは、同一の位相ソースからBB信号が定期的にPTP GM #1、PTP GM #2に入力され、SMPTE ST 2059-1に規定された時刻を算出しますが、時刻調整によって映像信号1フレーム分の差が生じます。このフレーム位置を調整し時刻が一致する弊社独自のVR冗長機能を有効にして構築を行っています。(下記資料参照)
VR冗長概要
- デモのポイント
- 位相ソースのBB信号をPTP GMに入力し、PTP(SMPTE ST 2059-2)及び、BBout(SMPTE ST 2059-1)信号を源振とした環境で、映像伝送ができること
- PTP GMを2台の冗長構成とし、BMCAによるGM切替わり時も、TS-2950独自機能:VR冗長機能により同一時刻、同一位相を供給することで、映像出力が乱れないこと
- 位相ソースBB信号、GM_BBout信号、SGP装置(PTP由来のBBout)信号が同位相であること
- SMPTE ST 2022-7冗長構成により、IP-GW及び、Arista Switchの片系が切断されても映像出力が乱れないこと
今回使用した機器
- ネットワーク機器(BC対応ネットワークスイッチ)
アリスタネットワークス 7150S-24 - SyncGenerator(株式会社リーンフェイズ様)
AJA Video Systems社 GEN10 - SDI-IP-GTW(株式会社リーンフェイズ様)
AJA Video Systems社 IPR-10G2-HDMI、IPT-10G2-HDMI - 計測器(オシロスコープ)
IWATSU DS-5314 - 映像再生機(スチューダー・ジャパン-ブロードキャスト株式会社様)
グラスバレー T2 iDDR
各機材のご協力ありがとうございました!
ネットワーク構築レポート
今回の構築の様子をご紹介します。
- 11:00 ブース到着!
今回、映像伝送技術及び、5Gに対応した小型グランドマスタークロックの構築、POE対応NTPクロックの設置もあるため、いつもよりも早い時間に会場へ向かいました! - 11:30 デモ環境構築
今回、ラッキング作業がなく、機材を棚の上に並べての構築だったため、設置はとてもスムーズに完了しました。
まずTS-2950(2台)、ネットワークスイッチ(2台)、小型GMC:TS-2912のシリアルコンソールポートからSmartCS(コンソールサーバー)にそれぞれUTPケーブルを接続し、キッティング作業を開始。
SmartCS経由ですべての機器のコンフィグレーションができるため、各機器のコンフィグをするたびにコンソールケーブルの接続変更も不要になり、デモ環境構築中のオペレーションログや装置から出力されるコンソールログがSmartCS内に自動的に保存されるため、トラブル時の切り分けにも威力を発揮します。
- 14:00 キッティング完了
PTP GM、Arista Switch、小型GMC:TS-2912のキッティングが完了し、映像再生機、IP-GW、オシロスコープ、モニターなどの接続を行い、各PTP_Slave機器のPTP同期ステータスが、問題ないことを確認します。 - 動態デモ機器PTPステータス状態:IP-GW:IPR-10G2-HDMI:PTP Locked
- 15:00 同期状態の確認(オシロスコープ波形)
位相ソースのBB信号、PTP GM#1,#2_BBout信号、SGP装置(PTP由来のBBout)信号
が同位相で同期していることを確認。
- 17:00 動作確認
映像再生機が、PTP GMからのBBoutにSyncしていることを確認し、映像を出力。
PTP GMにPTP同期しているIP-GW、Arista Switchを経由して見事に映像が出力されることを確認。
- 18:00 障害試験
冗長構成確認の為、IP-GW、Arista Switchの片系を切断し映像が乱れないこと。
PTP GMの同期系が切替わっても映像にショックがない事を確認。
- 19:00 NTPクロック動作確認
PTP GMはNTPサーバーにもなり、POE対応のNTPクロックがPTP GMに同期していることを確認しデモ構築完成!
【動態デモ各機材】
デモの結果
- PTP GM#1から出力したPTPパケット、BB信号を源振として、映像再生機、IP-GW、Arista Switch、SGP装置が同位相で同期を行い、映像伝送ができることを確認
- PTP GM#1からPTP GM#2に切替え、切戻しを行ってもVR冗長機能により映像が乱れないことを確認
- 各機器のBB信号が同位相である事を確認
- 障害発生時、SMPTE ST 2022-7により、映像が乱れないことを確認
今回、放送局、放送機器メーカーなど幅広い関係者の方々とPOCなどを通して、関係が築けたこと、また5Gを用いた放送コンテンツのIP伝送実験に、PTP対応グランドマスタークロック「Time Ssrver Pro.TS-2950シリーズ」を提供したことなどから、昨年よりもたくさんのお客さまに弊社ブースにお立ち寄りいただきました。まことにありがとうございました。
皆さまとお話しした中で、ご提示いただいた製品へのご要望は、パートナー企業との協同デモやPOCの実施、またセイコーのPTP製品への反映を通じて、お応えしていきたいと考えています!
今後とも、セイコーソリューションズの時刻同期の取り組みにご期待ください。
次回は、『InterBEEへの道 Part3』をお届けします
さて、次回のコラムは『InterBEEへの道 Part3』をお送りします。
また、本コラムではPTPにかかわらず映像分野におけるIPでの同期技術や、セイコーソリューションズの取り組みについてご紹介予定ですので、ご期待ください。
著者プロフィール
宮脇 信久
セイコーソリューションズ株式会社
セールスサポート部門で、ロードバランサー、PTP時刻同期製品のSEを担当
■経歴
2001年 入社
2001年~ レガシー手順のマルチプロトコルコンバーターのSEを担当
2010年~ ロードバランサーなどの汎用ネットワーク製品のSEを担当
2016年~ PTP時刻同期製品全般のSEを担当
近年は、Inter BEEなどの展示会での動態デモ環境構築、マルチベンダースイッチと弊社グランドマスタークロックの精度測定など幅広くPoC(Proof of Concept)に対応。現在に至る。
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放送業界事例(MMTでの時刻情報付与)
4K、8K時代のメディアトランスポート方式として国際標準化されたのが、IPをベースにした伝送技術「MMT」です。MMTでの同期において不可欠な高精度な時刻ソリューションをセイコーソリューションズのタイムサーバーが提供いたします。
放送業界事例(スタジオのIP化と局間伝送)
セイコーの「Time Server Pro. TS-2950」は 、IPネットワークによる高精度な時刻同期「PTP(SMPTE ST 2059)」によるナノ秒精度の絶対時刻の配信で、ライブプロダクションシステムのIP化や局間伝送の信号同期をサポートいたします。