第9回 『Live Media IP Showcase』レポート
前回のコラムでは、2018年4月に米国ネバダ州ラスベガスで開催された、世界最大の放送機器展覧会『NAB Show 2018(NAB2018)』の「IP Showcase」の参加レポートをお届けしました。
第9回は、筆者が企画立案から携わりましたイベント「Live Media IP ShowCase」についてのレポートをお送りします。
このイベントは、2018年6月13日~15日に千葉・幕張メッセで開催された「Interop Tokyo 2018」「Connected Media Tokyo 2018」の合同企画イベントです。
Live Media IP ShowCase企画立ち上げの経緯
これまでInterop Tokyo の相互接続イベント「ShowNet」において、2015年から3年間(ShowNet PTP Phase1~3)、高精度な時刻同期プロトコル「PTP」のマルチベンダー相互接続実証実験を、主にモバイルオペレーターが利用されるITU-T版PTP(ITU-T G.8265.1, G.8275.1)を中心に取り組んできました。そして、「ShowNet」でのPTP Phase4を検討する中で、ここ数年の欧米放送イベント「IBC」や「NAB Show」のIP Showcaseでは、Broadcast のLive MediaにおけるIP技術の相互接続実証実験、デモンストレーションが積極的に行われていることを知りました。
このような放送業界の動向を踏まえ、BroadcastとIPをキーワードにした、日本国内初の相互接続イベントを企画したいと考え、Interop Tokyoを運営するナノオプト・メディア社とともに、2017年夏から企画検討をスタートしました。
Live Media IP ShowCase
企画の検討を重ねた結果、今回のイベントテーマを「放送システムのIP化 8K遠隔伝送のためのIP技術」とすることにしました。
具体的には、次のようなイベントコピーを掲げました。
「放送制作機器のIP対応が進んでいます。IPは、放送局内部や現場からの映像伝送に大きなメリットをもたらします。そのひとつが、スポーツ会場などから放送局の制作現場まで映像を直接IPで伝送する遠隔伝送です。ここでは8Kライブ映像を効率的に伝送するデモンストレーションを実施しています。高画質・低遅延を保ちつつ(品質確保)、10Gネットワークで伝送する(効率性)ことを両立させるため、8K映像は軽圧縮技術によって伝送されます。また双方向性を持つIPの特性を活用し、遠隔地に設置されている機材のリモートコントロールが可能になっています。こうした技術は放送局のIP化のみならず、2020年頃にはパブリックビューイングにも応用できるとして期待されています」
今回のLive Showcaseでは、これからスタジアムなどで8K映像を撮影する際、8K中継車を配備せずに、10Gbpsのネットワーク回線をスタジアムと放送局間で接続すれば、スタジアム側の機材や人員を極小化できるのでは、と考えました。
そして、以下のデモンストレーションポイントを設定しました。
【デモンストレーションのポイント】
- 効率的な8K伝送技術:軽圧縮(Tico)を採用し、通信事業者が提供する10Gbpsネットワークを利用可能
- IPネットワーク:双方向特性を活かし、リモートコントロール・リモートプロダクションを実現
- 装置間の時刻同期:PTP (Precision Time Protocol: SMPTE ST 2059) を利用
- オーバーレイ伝送技術:VXLANを用いて遠隔/複数のネットワークを柔軟に構成
- モニタリング技術:映像伝送品質を確認するためのIPネットワークツールの活用
この中で当社の重点検証ポイントは、スタジアム側の8K IPゲートウエイ(映像送信側)と、放送局側の8K IP ゲートウエイ(映像受信側)の同期源を、GPSに時刻同期した別々のPTP Grandmaster Clock(以降PTP GM)のPTPにした場合でもIP伝送できちんと8K映像が再生できるか、ということでした。
なぜなら、今回のデモンストレーションの構成で、仮に放送局側にのみPTP GMが配備された場合に、10Gbpsの中継回線の品質により、PTP GMから送信するPTPを高い精度でスタジアム側に伝搬することを担保できない可能性があると考えたからです。
そして、デモンストレーションのネットワークを以下のように構成しました。
幕張メッセのHall 4をスタジアム側、Hall 7を放送局側と想定し、Hall 4側の8K映像をHall 7側に送信する8K映像伝送デモです。
その間の10Gbpsネットワーク回線として、Interop TokyoのShowNetを利用しました。PTP GMの時刻源として、本来は別々のGPSアンテナからGPS信号を受信させたかったのですが、物理的な制約からHall 4のGPSアンテナケーブルを分配し、その信号を同軸-光延伸装置でHall 7に届ける構成としました。
結果、Hall 4のPTP GMに同期した8K IPゲートウエイ(映像送信側)から送信した8K映像がHall 7のPTP GMに同期した8K IPゲートウエイ(映像受信側)で正常に受信され、その映像がHall 7の8Kモニターできれいに再生することができました。
所感
今回のイベントは、3日間の会期中に1000人の方にデモを見ていただくことを目標に考えていました。結果としては、毎日1000人規模の来場者の方に今回の検証を取りまとめたチラシを配布して、デモをご覧いただくことができ、放送業界をはじめとする多くの方々が、Live MediaにおけるIP技術に興味をお持ちであることを肌で感じることができました。
今回のイベントの成功は、ご協力いただいた皆さまのご協力があってのことと考えています。この場を借りまして、ご協力いただきました皆さまに感謝申し上げます。
また、11月14日~16日に幕張メッセで開催される「Inter BEE 2018」においても、Live MediaにおけるIP技術をご覧いただけるイベントを実施しますので、ご興味のある方は、ぜひ、「Inter BEE 2018」にお越しいただければ幸いです。
※今回のコラムは、Live Media IP ShowCase運営事務局 株式会社ナノオプト・メディアの監修の元、掲載しております。
次回は、「大規模技術検証レポート」についてご紹介します。また、本コラムではPTPにかかわらず映像分野におけるIPでの同期技術や、セイコーソリューションズの取り組みについてご紹介予定ですので、ご期待ください。
著者プロフィール
長谷川 幹人
セイコーソリューションズ株式会社
製品企画部門で、マーケティング・プロジェクトマネージメントを担当
■経歴
2002年 入社
2002年~ 2011年6月までプリセールスSEを主に担当
2011年~ 製品企画部門へ異動
近年は、Ethernet OAM/TWAMPなどを利用したネットワーク状態監視製品やNTP/PTPなどの時刻同期関連製品などの製品企画に従事。現在に至る。
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4K、8K時代のメディアトランスポート方式として国際標準化されたのが、IPをベースにした伝送技術「MMT」です。MMTでの同期において不可欠な高精度な時刻ソリューションをセイコーソリューションズのタイムサーバーが提供いたします。
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